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男は賭け事が好きだ
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ホテルに着き、まず驚いたのが、
桐嶋さんが前もって取っていてくれたホテルルームが一つだけだったということ。
それがどういう意味なのか、この時点でもう察してはいたが、
そわそわと廊下を進み、
部屋についてドアを開放してから、
俺は改めて目を見張った。
「本当にツインにしてくれたんだ…」
一つの部屋に二人分のシングルベッド。
俺の夢見たツインルームだ。
百歩譲られて隣の部屋かと思ってたのに、
まさかあの桐嶋さんが俺を同部屋にしてくれるなんて。
「シングル二部屋取るより安いからな。
ただの経費の節約だ」
経費軽減…?
この人にしてはえらく会社孝行なことを言うものだ。
本心かと横目を向ければ、
「なんだよ」と居心地悪そうな渋面が俺を見る。
「あの。それを言うならやっぱりダブルベッドにした方が、もっと安かったんじゃ…」
「馬鹿なこと言ってねぇで、体冷やす前にそれ着替えろ!」
言い終えるまでにまっさらなタオルを投げつけられた。
バスッと顔面にヒットした布地は、
一介のビジネスホテルのものとは思えないほど自然な香りがした。
タオルを肩に被りつつ、
服の方はほぼ乾ききっている事に気づき、
それを確認すると、
「はぁ…ちょっとだけ!」
思い切りベッドに飛び込み、疲れた身を癒すことに専念した。
…が、案の定、すぐにまた桐嶋さんに着替えを催促された。
風邪引く風邪引くって人のことばっか言って、
自分の方が冷えやすいくせに…。
わずかな部分にも世話焼きな性格をかいま見つつ、俺はやっとシャツのボタンに手を掛ける。
「うわ、本降りだな。
この様子じゃ止むかわかんねぇぞ」
もう片方のベッドでは、
窓を眺めた桐嶋さんがため息をついた。
窓の外は未だしたしたと雨が降り続けている。
台風なみの豪雨ではないが、にわか雨、というわけでもなさそうだ。
今日一日止まなかったらどうしよう…
雨空を目にそんなことを考えながら、
俺はぶるりと身震いした。
「あーさむい超さむい」
子供のように、軽快にベッドを飛び移る。
反動を利用して、勢いよく桐嶋さんにしがみついた。
「わ、つめてっ! おい…裸で引っ付くな」
触れた背中は、やはり俺よりずっと冷たくなっている。
背後から体重をかけつつ、
そのシャツをプチプチと開放してやった。
「ほら、桐嶋さんも脱いで脱いで」
「こらやめろ」
力任せに突き放され、そのままベッドから落っこちる。
床に仰向けに転がりながら、
はだけた桐嶋さんを見上げ、駄々をこねた。
それこそ小さい子みたいに。
「えぇ〜そこは脱がされましょうよ。
延いては俺と…三時のおやつしましょう」
一応言うが、
子供が今日は何かなと楽しみにする方のそれではない。
大人が明るいうちから悪さをする方のそれだ。
「気持ち悪ぃ比喩表現すんな」
狙い違わずピシャリとあしらってくる桐嶋さん。
だがその程度で退くつもりはない。
俺は身を起こし、
ベッドの端、組まれた足に擦り寄った。
「三時って、
男が一番したくなる時間帯なんですよ…?」
嘘は言ってない。生物学的に証明されたことだ。
によによと嫌らしい笑みを浮かべてるであろう俺に、桐嶋さんはなおも白けた目で見下ろしてくる。
「お前の性欲に時間帯は関係あんのか」
「ぐっ……じゃあ夜は?」
「仮にも出張でここはビジホだぞ。
するわけねぇだろ」
逆に許可すると思ったか、
まさかお前、そんなことをする為に同行して来たのか。…と言わんばかりの眼差し。
そう言われては返す言葉がない。が…
まさか出張そして同部屋という美味しい状況で、
機会を逃してしまうのももったいない。
「じゃあなんで、俺を同じ部屋にしてくれたんですか?」
「……だから。
交通費以外は経費で出るから、その方が会社の金も節約出来ると思って」
「ほんとに…?」
再び聞く言葉に、俺は眉をひそめた。
どこまでも素直じゃない。
そんなの、前もって作っておいたような安易な口実じゃないか。
「…確かにお前だから同部屋にしたのもあるが、
出張に来てまでしけこむ気はねぇ」
言いつつ伸ばされた裸足の足先が、
グイと俺の頬に食い込んだ。
『しけこむ』なんて珍しく率直な表現をするあたり、本当にそう思っていることがわかる。
「俺が勝手に盛って襲ってくることは想定しなかったんですか」
「お前はそんな酷いことするんですか」
「はい」
「はい言うな」
こうも頑なに拒まれると、
なおさら、無理にでも強いりたくなる。
しかし頑なはいつまでたってもきっと頑ななままだ。
これでは埒があかない。
……もう、あの手しかない。
俺は床の上にあぐらをかくと、決心したように顔を上げた。
「俺はぜひともしたい、
しかし桐嶋さんはしたくない、と。」
おもむろに、
手の届く場所にあった鞄を引き寄せ、外ポケットをゴソゴソとあさる。
そして、
不思議そうに見守る桐嶋さんに、
にっこり笑いかけた。
「ここはひとつ。
互いの要望を賭けたゲームをしましょう」
「はあ?」
露骨に顔を強ばらせる桐嶋さん。
俺はまぁまぁと笑って鞄から手を引き抜く。
取り出したのは、手のひらサイズの四角い箱。
使い古して角が破れたり剥げたりしているのはご愛嬌だ。
「警戒しなくても、ただのトランプゲームですよ。
どうせ雨やむまで暇なんだし…
付き合ってくれてもいいでしょう?」
隙のない貼り付けたような笑顔を見て、
果たしてこの人は今、何を思うか。
おおよそ、
一体何を企んでいるのかと俺を疑っていることだろう。
「負けた方は、
相手が今夜寝るまで言う事を何でも聞く…という条件でどうですか?
シンプルでかつちゃんと対等でしょ?」
しれっと言ったが、
これは俺にもなかなかの危険性がある。
決してズルをするわけではない、賭け事は賭け事だから。
勝てばセックス、負ければ下僕…
完全運任せのハイリスクハイリターンだ。
「何でも、か。
…悪くねぇ」
考え事をするみたいに別の所に視線を注ぎながら、口角を吊り上げる桐嶋さん。
この悪い顔は多分、
自分が負けることを全く頭に入れてない。
「乗った。
その勝負、俺が勝ってやる」
してまたその余裕ぶりは、
今まで結構な経験を積んできたとみた。
弟が四人も居れば、
この手の遊びなら、幼い頃から散々相手してきたことだろう。
「それはどうでしょうかね」
しかし俺も、
駆け引きやゲームごとなら強い方だ。
決して負ける気はない。
自信がないなら挑んでない。
「でも…
もし負けちゃったら、
色々諦めてくださいね」
「ふん、言ってろ」
────かくして。
互いの身体ひとつを賭けた男達の勝負が、今…
開戦の口火を切ろうとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
突如始まるカードゲーム。w
どうなるかなんてそんなことは、私にもわかりません( ˘ω˘ )←
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