アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
トキワの過去、東国の近代史
-
トキワは東国王妃が産んだ、三人兄弟の一番末の子供である。
今から25年前、彼が7歳になった頃、西国が東国の国境を破り攻めて来た。それは東西戦乱の始まりであり、長きに渡り世襲制で王位を継承していた前東王時代の終わりでもあった。
およそ二年で王都まで伸び始めた戦火、それから逃れ王妃と二人の兄は東の端に避難していたが、何者かの密告により住処を暴かれ襲撃に遭い殺された。その後、トキワの父もまた王城で打たれ、次々と親族は殺された。
一番幼かったトキワは、戦が始まった早々に父の家臣に預けられ、国を離れていた為難を逃れ助かった。しかし当然の事ながら、末の子供を取り逃がした事を敵も気付いていた。
先王の一族の者だけが持つ黒い瞳、それは、トキワの目の色でもあり、敵の標的でもある。家臣はこのままでは不味いと、独断で南国へ赴き特殊技能者を頼り、大金と引き換えにトキワの目、髪、肌の色を変える魔法を掛けさせた。そして、密かにトキワに成り替わる顔を潰した遺体を用意し、北国で偽の住民票を二人分得て、傭兵をしながらトキワを養った。
終戦後、空いた玉座に座ったのは戦の混乱に乗じて、更なる戦火を国内に導き王家を滅ぼすのに一役かった野心家の若い大臣だった。表向きは西国と東国の和平交渉を成功させたとして、国内のみならず国外からも穏便に国主として迎えられた。
その5年後に、三国同盟を経て四国同盟を締結。これにより大幅に狭められていた東国の国土は、元の国境の位置に戻り土地を取り戻した。
養父とも呼べる家臣は、トキワに国を託したいと思っていたのか、その本心は分からない。彼は、トキワに王となれとは言わなかった。ただ生き延びて生を全うするようにと告げた。
その家臣と本当の家族の様に共に暮らしたのは十年程で、彼は17歳になったトキワにあの小さなボロ家を残して死の床についた。
何れにせよ、彼程に深く強い忠誠心の持ち主をトキワは知らない。それが全てで、それで充分だった。
「ははっ、そんなに恐ろしいか。」
紅丸が笑う。
「恐ろしいよ。お前も恐ろしいし、この黒い目も恐ろしい。」
死はいつかやって来る。しかし、こんなふうに魔物の戯れで死ぬのは嫌だった。
「ならば、俺がお前に住処をやろう。本当の姿を晒して生きれる住処だ。」
「…何処だよ、」
「東の果ての果ての果て、」
「あのさ、それ断りてえんだけど。」
トキワは疲れた様に背中を壁に預ける。マリンに事情を話し、左目の色を戻して貰うのは如何だろうか…そこまで考え、トキワは冷静になった、矢張りそれは避けるべきだ。
ナツメにすら本当の事は話していない。ただ、東国には親の残した借金があり二度と行けないと嘘を付いている。まあ、似た様なものだろう。
「断れると思うか?」
板張りの廊下を踏む音、そして話し声が近付く。
コン、コン、
部屋の扉をノックされた。
「トキワ、入るわよー。」
マリンの声。どうするか迷ったのは一瞬、紅丸を押し退けて、入ってきた二人から左目が死角になるようにテーブルの前に座る。同時に、スッと襖が開いた。
「トキワ、手紙と贈り物は渡せたか?」
カイが問いかけながら、マリンと一緒に入って来る。
「まあな。偶然にも、紅丸に渡す手紙だった。」
トキワは水色の右目を晒し、黒い左目を閉じたままさりげなく隠してそう答えた。
「えっ、ベニマル宛なの?じゃあ、ラブレターじゃなかったのかしら、」
マリンが首を傾げる。
「この手紙か、見たいなら見るがいい。」
紅丸が三人の座るテーブルの上に手紙を置いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 120