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超能力編ー1日目・夜
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現在、23時30分。能力が解放されるまであと10分だ。
誰に使うべきだろう。犯行の瞬間を知るのが一番だから、狙われそうな人かな。
まず狙われるのは、戦闘能力が低そうな人だろう。反撃されて殺されたらおしまいだから。それに、人狼にとって厄介な能力を持っている人も狙われる。
そうなると、今日一番狙われそうなのは…
…僕かな?
いやいやいや……。
怖くなって、気持ちが揺らいでくる。ここで誰かに能力を使っても、僕が襲われたら意味がない。やっぱり尚ちゃんの言う通り、自分が襲われたときのために使わずにいた方がいいのかな。
でも、でも…。
尚ちゃんの顔がふと心に浮かんだ。
もし尚ちゃんが襲われたらどうしよう。自分が襲われるのを怖がって能力を使わずにいて、その結果尚ちゃんが死んじゃったら…。
そしたら僕もう、生きていけない。
怖がってちゃだめだ。尚ちゃんのためにも、早く人狼を見つけてこのゲームを終わらせないと。
そう決意したとき、鐘の音が聞こえた。
…え、もう40分だ!ど、どうしよう!誰に使おう!!
焦った僕はとりあえず、無口で何を考えてるのかわかりにくそうな、愛子さんに能力を使うことにした。
『最悪だ。こんなことに巻き込まれるなんて。わたしの人生、運が悪いと思ってたけどここまでとはね。最悪の能力を持って生まれた時点で最悪の人生になることは決まってたわけだ。ああ死にたい。死にたい。死にたい』
…正直、気が滅入る。暗そうな人だとは思ってたけど、ここまで内面がネガティブで、自殺願望に満ちていたなんて。
『死にたい。死にたい。でもここで殺されるのはだめだ。わたしには夢があるんだから。いつもわたしをいじめてくるクラスの連中を全員石に変えて、粉々に粉々に粉々に砕くんだ。粉々こなごなこなごな』
「こなごな」という響きが気に入ったのか、愛子さんは頭の中でしばらくその言葉をリフレインさせていた。
『砕いた後で能力を解除して、苦しむあいつらの姿を見ながら高笑いするのがわたしの夢。それを叶えるまでは死ねないわ。大丈夫。大丈夫。この能力さえあれば、襲われたって大丈夫。相手の目さえ見ることができればわたしの勝ちだもの。ずっとドアを見て待っていればいいんだ』
そんなに上手くいくだろうか?愛子さんを襲おうとする時点で、それくらい想定して対策を立てるだろう。
と思ったけど、それを伝えるすべはない。
『人と違うからって、どうしていじめられなければならないの?人を石に変えないように、ずっと下を向いて生きて、あんなに人を避ける努力しているのにどうしてわたしは嫌われるの?他人なんて大嫌い。わたしのことなんてちっともわかってくれない。わたしのことを邪魔だと言う。無価値だと言う。根暗で不気味で人に好かれるところなんて何一つないって』
…また呪いのような自己嫌悪が始まってしまった。
心の中は自由だ。何を考えていたって構わない。勝手に覗いてる僕が悪いんだけど…。
愛子さんはどんな人生を送ってきたんだろう。こんな考え方になってしまったのは、能力のせい?
誰からも嫌われている人なんていない。心の中を知ることができる僕にはわかる。どの人にも多かれ少なかれ、その人を好きでいてくれる人はいて、たいていがそれに気づいていないだけなのだ。
とりあえず明日、愛子さんに話しかけてみよう。心の中を見てしまったことを謝って、愛子さん自身についてもっと教えてもらって、友達になろう。
偽善者と思われるかもしれないけど、愛子さんの心がこのままなんて、悲しすぎるから。
ゴーン……
23時50分の鐘がなった。
心臓をバクバクさせながら愛子さんの心の声を聞く。能力に集中しているぶん、自分の周囲の状況はどうしても意識しづらい。この状態で襲われたら、きっとひとたまりもないだろう。
でも僕は、能力を使って人狼探しに貢献するって決めたんだ。
『大丈夫。大丈夫。わたしは大丈夫。生きてたって死んでるような人生なんだ。もう覚悟はできてい……ひゃっ!来た!え、なんで?目が、目が合ってるのに、なんで?わたし、どうすれば、とりあえず、もっと、目を見て、あっ……………』
愛子さんの心の声はそこで途切れてしまった。
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