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超能力編ー6日目・夜
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尚ちゃんが、いなくなった。
僕はなんにもできなかった。
守るどころか、信じきることさえ、できてなかった。
あのあと、広間の扉は開かなくなってしまった。尚ちゃんの体がどうなっているのか、考えるのが恐ろしい。
仕方なくすごすごと部屋に戻り、ベッドの上でため息をついた。
数日前はすごく幸せだった。
大好きな尚ちゃんにやっと想いが通じたから。
とても心がきれいな人が、僕を見てくれた。僕のことを好きだと言ってくれた。
…なのに。そんな大切な尚ちゃんを、僕は失ってしまったのだ。
僕は今、どうすればいいんだろう。
このゲームに勝ったら尚ちゃんが生き返ったりとか…しないかな…。
コンコンコン。
扉がノックされる音が響いた。はっと時計を見ると、もう襲撃の時間になってしまっていた。
誰が来たのかな。広衣さん?透さん?それとも…
「こんばんは、知真くん。あなたを殺しにきたわ」
「広衣さん…」
扉の先にはうっすらと微笑む広衣さんが立っていた。
『わたしの勝ちね』
とりあえず能力を使うと、広衣さんの心の声が聞こえてきた。
『本当なら今日の昼で終わってたのに、透に邪魔されたわ。工士くんが全部やってくれるって言うから、誰も殺さずに終わると思ってたのに』
「広衣さんは…人を殺せるような能力を持っているんですか?サイコメトリーじゃなくて…」
「ふふ。そうね」
広衣さんは手袋を外した。
『こんな能力、今まで邪魔でしかなかったのに、まさか役に立つ日がくるとわね』
広衣さんは両手を伸ばし、淡々とこちらに近づいてくる。
あの手に触れてはいけない、と本能的に思った。
とっさにシーツを手に取り、全身に羽織る。
『あらあら、可愛いことするのね。シーツくらいじゃこの手から出てくる毒には勝てないのに』
毒か!
ということは…能力が使える時間が終わるまで、広衣さんの手を避け続ければ勝てるのかな。
後ずさりしていたら、ついに背中が壁についてしまった。
「知真くん、無駄な抵抗はやめましょう。疲れちゃうもの。じっとしていれば、すぐに尚武くんのところへ連れて行ってあげる」
「…僕は、死なない」
「尚武くんに会いたくないの?」
「死んだら何もなくなるだけ。尚ちゃんに会えるわけじゃない」
「リアリストなのね」
『今だ!』
広衣さんが突然動きを早め、僕を突こうとしてきた。
だけど、僕にとっては突然じゃない。かけ声まで聞こえたら、さすがに避けられる。
壁づたいに距離をとったが、広衣さんは余裕の笑みを浮かべていた。
「そっか。テレパシー使えるもんね。何も考えないようにしなきゃいけないわね」
「何も考えないっていうのは、けっこう難しいよ」
「そうね。でも大丈夫よ。不意打ちができないってだけだもの」
そう言うと広衣さんは、僕に向かって走りだした。
同時に僕も広衣さんのいない方向へ走る。
まるで鬼ごっこだ。
狭い部屋の中では、鬼に圧倒的有利。
しかも僕は、そんなに運動が得意じゃない…。
すぐに追いつかれそうになり、とっさにそばにあった椅子をつかもうとしたけど、足がもつれて転んでしまった。
広衣さんの手が、僕の顔面に近づいてくる。
「尚ちゃん…」
「ふふふ。これで、わたしの勝ち」
「尚ちゃん!助けて…!」
僕がそう叫んだ瞬間、広衣さんの体が横に吹っ飛んだ。
「ぎゃっ!」
「えっ?!」
目の前には尚ちゃん…ではなく、知らない男の人が立っていた。どうやら広衣さんの頭を横から飛び蹴りしたらしい。
「…誰?」
「君が内藤知真かね?」
声が聞こえて左を見ると、また別の知らない男の人が立っていた。
「そ、そうですけど…あなたたち、誰ですか?」
「私たちは依頼を受けてそこの女性を殺しに来た者だ」
「こっ、殺し屋?」
「探偵だ」
「殺し屋って初めて見た…」
「だから、探偵だ!」
「まあまあ、いいじゃないですか」
飛び蹴りの男の人がなだめに入った。
「それより先輩、広衣どうしますか?」
「まかせろ」
そう言って先輩のほうがナイフを取り出し、広衣さんの心臓を刺した。
「わあ、さすが先輩!迷いない手つきです!」
「探偵の基本だ」
「かっこいいです!」
『先輩はやっぱりすごいな〜。超能力者を一発で殺せるなんて!今すぐ抱いてほしい』
『あー腹が空いた』
心臓が刺された途端、2人の心の声が飛び込んできた。
2人ははしゃぎながら部屋を出て行く。おそるおそるついていくと、玄関が現れていた。
後輩のほうがにこにこしながら僕を振り返った。
「よかったですね!これで外に出られますよ!」
「あ…ありがとうございます…」
あっけない。これだけ数日間大変だったのが、嘘みたいにあっさり外に出られるようになるとは。
後輩のほうがドアを開けると、外は真っ暗で冷たい風が吹いてきた。
「先輩、寒いですねー。夜遅いですし、ここで一泊していきます?」
「いいな。朝になったら警察に捕まってるかもな」
「あちゃー、そうでした。早く帰りましょ!透のやつ、ちゃんと依頼料払ってくれますかねー」
『よかった。無事に帰れて。透が絡んでるからどうなることかと思ったけど、案外ふつうの依頼だったな』
『今から夜食を食べたら健康に悪いだろうか』
がやがやと出て行く2人に続こうとした時…
「知真」
後ろから、大好きな人の声が聞こえた。
「尚ちゃん…?」
振り返ると、死んだはずの尚ちゃんが、階段の上から僕を見下ろしていた。
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