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超能力編
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「尚ちゃん!生きてたの?生き返ったの?なんでもいいや!尚ちゃーん!」
尚ちゃんのもとへと階段を駆け上る。
勢いよく抱きつくと、尚ちゃんは微笑んで頭を撫でてくれた。
「一人にして、ごめんね」
「大丈夫!僕一人でも頑張ったよ!僕たち勝ったから、二人で外に出られるね」
「…ごめんね」
「そんなに謝らなくてもいいよー!むしろ僕の方こそ」
「ごめん。俺、勝ってないんだ。知真と同じチームじゃないから」
「…え?」
背筋がひやりとする。嫌な予感だ。話の続きを聞きたくない。
「で、でも、尚ちゃん人狼じゃないでしょ?人を殺したりなんて、しないでしょ?尚ちゃんはすっごく優しいもん。そんなことできないよ」
「……俺は、優しくなんてないよ」
尚ちゃんはゆっくり僕から体を離し、一歩後ろに下がった。
「俺は狂人なんだ。夜の襲撃はしないし、人数も村人として数えられてるけど、人狼が勝つことが俺の勝利条件だ」
「うん…?」
「俺が勝ったら、ゲームが始まる前まで時間を戻してもらえることになってた。そして、ゲームは行われない」
…え?
つまり、人狼が勝ったら、このゲームはなかったことになってたってこと?
僕、死んだほうがよかったのか?!
「…じゃあ、尚ちゃんが負けたら?尚ちゃんはどうなるの?」
「負けたら、能力を奪われる」
「能力?でも尚ちゃん、超能力なんて使えないって…」
「…知真には、いっぱい嘘をついてた」
尚ちゃんは深呼吸をしてうつむいた。
気温が、ぐっと下がったように感じる。
「俺は、人の感覚や行動を操る能力を持ってるんだ」
「え…?それってつまり」
「人狼に襲撃をさせてたのも、処刑を行ってたのも、みんなをここに閉じこめていたのも、全部俺だよ」
「なっ……なんで…?」
尚ちゃんは、誰にでも優しくて、僕のことが大好きで、裏表のない綺麗な心を持っていて…
そんな、そんなこと、するはずない。
息が苦しい。僕が見てきた尚ちゃんと、全然つながらない。僕が聞いてた心の声は、一体なんだったんだ?
…あれ?
そういえば、尚ちゃんの心の声が聞こえない。
もう制限は解除されているのに…。
お互い沈黙していると、廊下の奥からこつこつと2人分の足音が聞こえてきた。
「やあやあ!知真くん、尚武くん、おつかれさま」
歩いてきたのは透さんと、ゲームマスターをしていた心の見えない人だった。
「尚武くん、能力バラしちゃったんだねー。凍りそうなほど冷たい空気の中に、みなさんのホッカイロ透くんが乱入するよ!」
「何言ってんだお前は…」
ゲームマスターの人がため息をついた。
「知真くん、紹介するよ!こちら、今回ゲームマスターをやってくれた、僕の恋人村木くんです」
「…えっ?恋人?」
「そしてこちら、今回のゲームを成り立たせるために全力を尽くしてくれた、君の恋人尚武くんです。村木くんや僕に能力が使えないのも、尚武くんが君の行動を操ってるからだよ。尚武くん万能だよねー。なんでもできちゃうもんねー」
「透さんは…なんなんですか?ただの参加者じゃないんですか?」
僕がそう聞くと、透さんはにやっと笑った。
「参加者、兼、主催者だよ。今までのゲーム見てたら僕も参加してみたくなってさー。ゲーマスを村木くんに依頼して、雑用を尚武くんにお願いして、やってみたんだー」
尚ちゃんを振り返ると、うつむいたまま、暗くて表情がよくわからない。
「尚ちゃん…なんでこんなことしたの?透さんと、どういう関係なの?」
「尚武くんは僕に逆らえないんだよ」
尚ちゃんに聞いたのに、透さんがにこにこしながら答えた。
「人を操る能力を与える代わりに僕の企画に参加するっていう契約をしたんだ。逆らったらその時点で能力を奪う」
透さんはネックレスにしている石に触れた。すると石が鈍く発光した。
「尚武くんは君と違って、もともと超能力なんて持ってなかった。この石を使って僕が与えた能力なんだよ。尚武くん、念願の能力を使ってみてどうだった?楽しかった?」
「どうしてそんなことしたの?そんな能力、尚ちゃんに必要ないじゃん…」
尚ちゃんはようやく顔を上げた。
「…知真に、俺のことを好きになってほしかった。恋人になりたかった。だから知真にはずっと能力を使ってた」
「そんな能力なくても、僕は尚ちゃんのこと好きになるよ」
「ならないよ。俺は、知真の思ってるような、優しくて心の綺麗な尚ちゃんじゃない。本当の姿を見たら、知真は絶対俺から離れていく」
「そんなことないよ。どんな姿でも、尚ちゃんは尚ちゃんだよ。好きな気持ちは変わらない」
「嘘つかないで…」
尚ちゃんの目から、涙が一筋こぼれた。
思わず尚ちゃんに駆け寄って、抱きしめた。
「じゃあね、知真くん、尚武くん。能力はもうすぐ切れるよ」
透さんと村木さんがいなくなって、僕たちは二人きりになった。
「もうだめだね。やっぱり、ズルはいけなかったんだ。知真に好かれるために、色んな人を傷つけて、知真のことも、騙してばっかで。でも、もう能力がなくなっちゃう。俺には何にも残らない」
「尚ちゃん、泣かないで」
尚ちゃんの背中を、ゆっくりと撫でた。
「約束するよ。能力が解けても、僕はずっと尚ちゃんと一緒にいるよ」
「ほんとうに?」
「本当だよ」
僕は尚ちゃんの唇にキスをした。
すると今までの尚ちゃんとの思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
目を開けたら、今までの尚ちゃんはいなくなる。
そんな予感がして、僕は尚ちゃんを強く抱きしめた。
「…知真、目を開けて」
尚ちゃんが、耳元で囁く。
目を開けると、僕は全部、思い出した。
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