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超能力編
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「知真のことが好き。わたしと付き合って」
夕暮れ時の教室で、あやめに告白された。
幼稚園、小学校、中学校、高校、全部同じだった幼なじみの女の子。
小さい頃から人の心の声が聞こえて、人間を嫌いになりそうなとき、救ってくれたのはいつもあやめだった。
あやめはいつも真っ直ぐで、明るくて…僕のことが好きだった。
「って、そんなのバレバレだったよね。知真はわたしの心の中わかっちゃうんだし」
「ありがとう」
僕がそう言うと、あやめの顔がぽっと赤くなった。
「あ、あはは!恥ずかしいなー」
「昔は、知真くんと結婚する!ってよく言ってたのに」
「それめっちゃ小さい時でしょ!そういう好きとは、違う好きだから…」
「僕、あやめのこと好きだよ」
「え…」
あやめが期待に満ちた目で僕を見ていて、僕はどうしようもなく申し訳なくなる。
「あやめを見てると、心が軽くなる。裏表がなくて、いい子だなって思う」
「じゃ、じゃあ」
「でも、ごめん。付き合うことはできない」
『どうして?
わたしのこと好きなのに?
結婚、できないの?』
あやめの心の声が、僕に問いかけてくる。
「僕は……男性が好きなんだ。あやめのこと、恋愛対象としては見られない」
『男性が好き?
ゲイってこと?知真が?
なにそれ
じゃあ、わたしの気持ちは?』
「性別って、そんなに重要?」
「…ごめん」
「あはは!そうだよね!わたしだって女の子に告白されたら困っちゃうもん」
『ずっと好きだったのにな。性別が合わないとか、もうどうしようもないじゃん』
「でも、うれしいよ!知真が、わたしのこと好きって言ってくれて」
『ああ、何言ってるんだろう
うれしいけど
うれしいけど、でも
わたしが男だったら、知真はわたしのこと愛してくれたのかな』
「大事なこと、打ち明けてくれてありがとう。これからも、わたしと友達でいてくれる?」
『友達なんて、嫌なのに』
「…うん」
「よかった!じゃあわたし、ちょっと用事あるから、先帰るね!」
あやめは精一杯そう言ってどこかへ走っていった。
苦しい。人の心が見えてしまうと、こんなときにも相手の本音が見えてしまう。
…僕は、そんなことしか考えていなかった。
だけど、今ならわかる。悪いのは僕だ。
あやめが僕のことを好きなのは、気づいていた。あやめの心はいつも僕の方に向いていて、絶対に僕を傷つけることはない。だから一緒にいると安心する。満たされる。
僕はあやめの好意を利用していたのだ。
応えることができないとわかっていたのに。
「…あやめ」
目を開くと、尚ちゃんの姿はなく、あやめがぽつんと立っていた。
『馬鹿だったな。男になろうとするなんて』
いつも笑っているように見えるあやめの顔に、悲しさが浮かんでいた。
「ごめんなさい。自分の思いを叶えるために、こんなにたくさんの人を巻き込んじゃった」
『上手く行くと思った。人狼が誰かわかってるんだから、その人が生き残るように誘導するだけ。…でも、あの透に勝てるはずなかったんだよね』
心の声が、容赦なく伝わってくる。聞きたいことも、聞きたくないことも。
「僕の方こそ、ごめん」
「…なんで知真が謝るの?」
「あやめのこと、傷つけたから」
「も、もう…やめてよ!知真は何も悪くないんだから」
『これで本当にお別れだ。知真とはもう、友達じゃいられない。こんなことやらかしておいて、一緒にいるなんてできない』
そんな内心は全く表に出さず、あやめはにこっと笑った。
「そろそろ、帰ろっか。ここに長くはいられないもんね」
『尚武になりたかったな。知真に愛される尚武に』
僕は尚ちゃんを愛していた。
じゃあ、あやめは?
尚ちゃんもあやめも、中身は同じだ。違うのは性別だけ。
たったそれだけなのに、どうして同じようにできないんだろう。
「知真、行こう?」
あやめがにこっと笑って玄関を指差した。
『さよなら、知真。せめて知真が、この先ずっと幸せでいられますように。本当に好きな人と、出会えますように』
「あやめ!」
思わず僕は叫んでいた。
「これでお別れなんて、言わないで」
僕がそう言うと、あやめは優しく笑った。
「言ってないよ」
「言ったよ。心の中で」
「…やっぱり知真に嘘はつけないなぁ」
あやめに対する気持ちは、自分でもよくわからない。でもわからないなりに、あやめにちゃんと伝えたい。
「あやめ、好きだよ。世界で一番好き」
「……」
『やめてよ、知真。わたしもう、がっかりするの嫌だよ』
心がずきっと痛むけど、僕はそのまま話し続けた。
「たしかに恋愛感情はないよ。あやめとキスもセックスもできると思うけど、性的興奮は感じないと思う」
「えっ?あはは!そんなはっきり」
「でも僕はあやめが好きだよ。たぶん尚ちゃんよりずっと好き。あやめがいなかったら今の自分はなかったし、すごく寂しくて不信感に満ちた人生になってたと思う。それは尚ちゃんじゃなくて、あやめがいたからだ。だから、この先も一生、あやめのそばにいたい。あやめのことも、幸せにしたい」
僕は深呼吸した。自分の言おうとしていることが正しいのかどうか、全くわからない。でも、とにかくあやめに伝えたい。
「こんな僕でよかったら、結婚してください」
一息でそう言って、頭を下げた。
『えっ……えっ?なにこれ?どういうこと?』
あやめの心が混乱しているのが伝わってくる。
「僕まだ18歳になってないし、大人になったらって話なんだけど」
「やっ…そこじゃなくて…知真、ゲイなんだよね?男性が好きなんだよね?なのに、女のわたしと結婚?」
「うん」
「なっ、なんで?」
「あやめと家族になりたい。死ぬまで一緒にいたい」
「えええ?…じゃ、じゃあ、もし好きな男性ができたらどうするの?知真、絶対そっちと付き合いたいってなるよ?」
「あやめより好きな人なんてできないよ」
「そっ、そうかなぁ…」
『知真ぶっとんでるなぁ。こんなひどいゲームに巻き込まれたから、頭おかしくなっちゃったのかなぁ』
心配そうにしているあやめを見ていたら、なんだか笑えてきてしまった。
「ちょっとー!なんで知真笑ってるの!」
「ごめんごめん」
「けっ…結婚の件は、おうちに帰ってじっくり考えるから」
「うん」
「さよならなんて、言わないから」
「うん」
あやめが差し出してきた手を、しっかりと握った。
「もう一度あやめに会えて、よかった」
「わたしも。あやめって呼んでもらえてうれしい」
「大好きだよ、あやめ」
「…ありがとう」
こうして僕とあやめは、2人で屋敷を後にした。
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