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超能力ワンナイト人狼(1)
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「ワンナイト人狼って知ってる?」
操士くんの言葉がきっかけで、僕、尚ちゃん、操士くん、工士くんは超能力者4人でワンナイト人狼をやることになった。
人の心が読めてしまう僕がいたら、そんなゲーム面白くなくなっちゃうんじゃないかと思ったけど、全員能力は存分に使っていいということになった。
というわけで僕の目の前にはカードが伏せられている。
「じゃあ、目の前のカードを誰にも見られないように確認してね」
操士くんがそう言って、僕たちは皆こっそりとカードを確認した。
…こっそりも何も、カードを確認した時点で、僕は全員のカードを把握できちゃっているんだけど。
「はい。じゃあ目をつむって。夜のターンを始めるよ」
…目をつむっても、僕にはみんなの声がどんどん聞こえてくるんだけど。
「じゃあ占い師の人は行動を開始してください」
さて、占い師は尚ちゃんだ。
『何があっても知真の味方でいよう』
…重いな!ボードゲームやってるだけなのに!
でもその愛の重さが心地よい!
『知真は…村人か』
どうやら尚ちゃんは僕のカードを確認したらしい。ということは、僕らが味方同士なのはお互い通じ合ってるってことだ。嬉しいな。
「次に、怪盗の人は行動を開始してください」
『って、僕なんだけどねー』
怪盗は操士くんだ。
『やっぱり一番交換すべきははこいつのカードだよな。ムカつく能力持ってるし』
ムカつく能力?誰のことだろう…。
『なーんだ、結局村人か。つまんないなー。…っと、早く司会しなくちゃ』
「最後に、人狼の人は行動を開始してください」
操士くんがそう言った瞬間、みんなが同じことを思い浮かべた。
『暇だなぁ』
そう、僕らは全員村人チームなのだ。
これは嬉しい。なんてったって僕は全員の心の中が偽りなくわかるんだ。これはもう、全員で大勝利だよね。
「目を開けてくださーい」
目を開けると正面では、尚ちゃんが僕を見て微笑んでいた。言葉にならない優しさの塊みたいなのがドンと心に飛び込んできて、じんわりとあたたかい。
『好きだよ、知真』
ぐはっ!僕も好きだよ尚ちゃーん!
「えっと…ラブラブだね…」
「えっ?」
横を見ると、工士くんが顔を赤らめていた。
『僕も心を読めるってこと、忘れてるのかな…』
「あっ!そうだ。そうだったね」
心の中の言葉に直接返事をしたせいか、工士くんはびくっと体を震わせた。
工士くんは他人の超能力をコピーすることができる。僕と出会ってからは工士くんもテレパシーが使えるようになってしまったということだ。もっとも、本来の僕の能力よりは効力が落ちてしまっているらしく、自分が意識を向けてる相手にしか使えないし、僕に対しては全く使えないらしい。
しかしむしろ、その方が便利では??
「工士、バカップルは置いといてゲーム続けるよー」
「あ、ご、ごめん」
操士くんの言葉で、工士くんはさらに萎縮し声が小さくなった。
この双子は仲が良いのか悪いのかよくわからない。表面上は横暴な操士くんにびびる工士くんという構図だけど、心の声を聞いていると、操士くんは案外まともな感性を持っていて、逆に工士くんはたまに得体の知れない感情を抱えているみたいで。
…まあ、テレパシーが使えたって他人のこと全部わかるわけじゃないもんなぁ。
〈話し合いスタート〉
尚武「じゃあまず俺から」
尚ちゃんが右手を挙げた。
尚武「俺は占い師で、知真を占ったよ。知真は村人だった」
知真「うん、正しいよ。僕は村人」
操士「ふーん…」
操士くんは僕と尚ちゃんをじっくりと眺めている。
操士「僕は怪盗だったよ。工士と入れ替えたけど、結局村人だった。つまんないねー」
工士「あ、うん。僕は村人だよ…えーっと、つまり?」
尚武「俺たちは全員村人チームみたいだね。お互いに1票ずつ投票すれば全員勝利で終わりだね」
知真「うんうん!」
操士「でもさ、嘘ついてる可能性もあるでしょ?」
知真「え?」
操士「尚ちゃんと知真くんが人狼で、占い師と村人のフリをしてるってこと!」
知真「それはないよ!僕はテレパシーで全員の役職がわかってるんだもん。僕と工士くんが村人で、尚ちゃんが占い師、操士くんが怪盗。間違いないよ!」
操士「馬鹿なの知真くん?知真くんたちが嘘ついてるかもって疑ってるのに、テレパシーでわかるんだとか言われてもさー」
尚武「知真は嘘なんてつかないよ」
操士「いやいやいや、嘘つくゲームだし」
工士「あの、操士…僕たち全員、たしかに村人チームだよ」
操士「ん?」
工士「僕もコピー能力でテレパシーを使ってみたんだ。尚武くんは本当に占い師だったから、知真くんもたぶん村人なんだと思う」
操士「ふーん…3人とも嘘をつく可能性は、さすがにないか」
操士くんの心の中には『こんなあっさり終わってつまんないな〜』という感情が溢れている。
…やっぱり、僕を入れるのは失敗だったんじゃないだろうか。テレパシーを使える人が2人もいると、ゲームが成り立たない気がする。
操士「まーいいや。投票しようよ」
〈話し合い終了〉
僕らは時計回りに1票ずつ入れて、投票を終え、カードを表にした。
工士くんは怪盗、尚ちゃんは占い師、操士くんは村人、そして僕は……
……え?
全員の視線が僕に集まる。
「知真くん、人狼だったの?」
『尚武くんは知真くんのカードをめくったとき、確実に村人だって思ってたはずなのに』
工士くんはびっくりして目をパチパチさせている。
「結局2人が嘘ついてたんじゃん。僕の予想通り!」
『一体どうやって工士を騙したんだ?そもそも尚武は占い師だから、嘘つく必要なくない?』
操士くんは不満そうに頬を膨らませた。
「おめでとう、知真」
尚ちゃんはにっこりと笑っている。
「…尚ちゃん、何かしたの?」
「俺も超能力者だからさ、能力を使ってみたんだよ」
「えっと…どうやって?」
「俺は人間の認知機能や記憶や行動を操ることができる」
「う、うん…」
そうだ。普段なぜかあまり意識していなかったけど、尚ちゃんはとんでもない超能力を使うことができる。
「あのさあ、能力使っていいとは言ったけど、そんななんでもありみたいな使い方、どうなの?人の行動を操ったら、勝てるに決まってるじゃん。ていうかドヤ顔してるけど結局尚武は負けてるし!」
操士くんは不満そうにしているが、尚ちゃんは余裕を崩すことなく話を続ける。
「俺がしたことは2つだけだよ。ルール違反はしてない」
「えー?」
「俺が占い師で知真のカードを見た時、知真が人狼だってことがわかった。だからまず、知真の記憶を操作して、自分は村人だったと思い込ませることにした」
「全然気づかなかった…」
僕がぽつりとつぶやくと、尚ちゃんはさっと僕の頭を撫でた。
『知真のためとはいえ、結果的には知真を騙すことになっちゃったな…』
尚ちゃんの悲しそうな心の声が聞こえてきて、僕まで胸が痛くなる。
「次に、俺が操作したことがバレないように、知真と工士くんのテレパシーを制限した。俺にとって都合の悪いことは2人に聞こえないようにしたんだ」
「うわー、そういうこと普段からやってるの?自分に都合の良い展開になるように周りの人を操るとか」
「ん?そんなわけないじゃん」
非難するような口ぶりの操士くんに対し、尚ちゃんはただにこっと笑いかけた。
「普段からそんなことしてたら疲れちゃうよ。俺はありのままで生きてるよ」
「へー……。で?どうして知真くんを勝たせたかったの?尚武にメリットある?」
「別に勝たせたかったわけじゃないよ。知真に人狼の役をやってほしくなかっただけ。たまたま人狼が知真1人だったからこうなったけど、他にもう1人いたらまた違う展開になってただろうし」
「は…?」
操士くんはぽかんとしている。
「知真には俺の気持ち、伝わってるんだよね?」
「…うん」
話し合いの間中制限されてた尚ちゃんの思いが、さっきからどんどん僕に伝わってきている。
それは、尚ちゃんの優しさとしか呼びようがないものだった。
「いや、僕と工士はさっぱりだから!説明してよ!」
「操士くん、知真はテレパシーが使えるんだ。だから日頃から、人間の嘘や隠し事を全部直接感じてきたはずだよね。もう慣れてることかもしれないけど、俺はそんな知真がかわいそうだなって思う」
「うん。…でも僕、大丈夫だよ?嘘をつかないことが偉いわけじゃない。大事なのは内心じゃなくて行動だって、わかってるから」
「そうだよね。知真なりに、ちゃんと折り合いをつけてる。だけど俺はどうしても、そんな知真に嘘をつかせることが嫌だったんだよ。純粋な知真を汚してしまうみたいで」
「尚ちゃん…」
「はああ?よくわかんない!よくわかんない!」
操士くんはじたばたしている。
「何大げさなこと言ってるの?ただのゲームだよ?」
「うん。ただのゲームなんだけど、それでも俺は知真に嘘をつかせるなんて…」
「ゲームは、楽しもうよ!そんなにやりたくないなら最初から断ればよかったじゃん!大体、知真くんも楽しそうにしてたよね?仕方なく参加したわけじゃないでしょ?」
「え!えーっと僕は…」
矛先が僕に向いてしまった。
…まあ正直なところ、ゲームに誘ってもらえたのは嬉しかった。それに、僕は普段全く嘘をつかないわけじゃないし。
「僕は、ゲームに誘ってもらえたのも嬉しかったし、尚ちゃんの思いやりも嬉しかったから、結果今は幸せいっぱいって感じかな…」
「知真、よかったね」
「尚ちゃん、大好き」
尚ちゃんと手を取り合って微笑み合う。好きだという気持ちを交換しあってるみたいで、僕はさらに幸福に包まれる。
「なんっなのこいつら!帰ろう工士!まりもと遊ぶほうが100倍楽しいわ」
「あ、待ってよ操士!」
ついに操士くんの怒りが爆発した。ぷりぷりしながら帰っていく操士くんを、工士くんが慌てて追いかけている。
「俺らも帰ろっか。ワンナイト人狼、楽しかったね!」
「うん!」
僕と尚ちゃんは仲良く手を繋いで歩き出した。
たしかに、なんだかんだ楽しかったから、また遊んでみたいな。
………次は、尚ちゃん抜きで。
おわり
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