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人狼編⑵
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1日目・昼
穏やかな海面を、船は滑るように進んでいく。
あれから数日が経った。俺は島に向かう船の中にいる。
前回と同じく、メンバーは全部で11人だ。
以前からの知り合いであることをバレないようにするため、ヤスとは離れた席にいる。
「君も、村木という男に雇われたのかね?」
船が出発してからしばらくして、隣の人が声をかけてきた。
「ああ。儲かるバイトって聞いたんだ」
テキトーに話を合わせる。
「そうか。やはり詳しい業務内容は聞かされてないのだな。私はエドガー。名探偵だ」
「名探偵??」
名探偵って自分で名乗るものなのか?
片手を差し出してきたエドガーをまじまじと見る。
「これから行く孤島で連続殺人事件が起きたら全部私に任せてくれ」
「はあ。起きないと思うけど…。俺はシン。金の亡者だ」
エドガーの手を握り返す。
「金の亡者??」
「これから行く孤島で徳川埋蔵金が見つかったら全部俺にくれ」
「見つからないと思うが…」
エドガーは不審そうにしている。
「ところで、エドガーって本名なの?外国の方?」
「偽名だ。純日本人だ」
「へー。さすかメータンテー」
なんだか飽きたので他の人にも声をかけてみることにしよう。
前の席の人達は2人で話をしていた。
「ね、なんの話してるの?俺はシン」
2人はそろって振り向く。
「俺はケイゴ。いい名前だろ?おばあちゃんがつけてくれたんだ」
「俺はミナトだ。怪しげなバイトに応募しちゃったなーって話をしてたんだ」
…とりあえずミナトは会話が通じそうだ。
「怪しげなバイトといえばね、俺はよく被験者のアルバイトをしているんだよ。危険性はないって何度も強調されると、逆に怪しく感じてきちゃうもんだよ。信頼されてる機器なんですよ。現場でもよく使われてますよ。副作用は見つかってませんよ。でも保障はできませんってね」
「そうか。よろしくな」
ケイゴはほっとくとずっとしゃべり続けそうな雰囲気だったので、会話を強制終了することにした。
次はエドガーとは逆側の隣の席の人に声をかける。
「やあ、俺は貯金大好きシンだ。君は?」
すると隣の席の人は突然変な印を結んだ。
「鎮まれ、我が腕に棲むドラゴンよ」
「は?」
「失礼。ドラゴンが覚醒しかけていたのでな。我が名はコタロウ。別名リトル・ダークネスだ」
「へえ…」
なんだか前回より変なやつが多い気がする。
まともそうな人いないかな…
後ろの席にも目を向ける。
真後ろの人と目が合って、にこっと笑いかけられた。
「俺はナオキだよ。よくわかんないけど頑張ろうな!」
「おう!俺はシンだ。仲良くやろう」
フレンドリーだ!
そう思うと同時に、自然とヤスの方を見てしまう。
ヤスはあの時も今でも、表面上はフレンドリーないいやつだ。だからこそ、久しぶりに会った時…衝撃を受けたんだ。
「どうした?なんだか悲しそうな顔してない?」
ナオキが心配そうに声をかけてくれた。
「あ、ううん。なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」
いいやつだなー。
後ろの席には、あと2人の人物が座っている。
右の人は、なぜか泣きだしそうな顔で海を見つめていた。
「君、どうしたの?俺は守銭奴シンだ」
「あっ…」
その人は目をうるうるさせたままこちらを見る。
「僕、ミズキ。う、海が怖くて…」
「海が?」
「海には道がないでしょ?だから、知らない間に方向を間違えて、海しかない世界へ連れていかれているような気がして…」
「…大変だな」
「帰りたい。早く帰っておうちで寝たいよぉ」
こいつなんでこのバイト応募したんだろう。
左の人は空中を見つめてぽけーっとしている。
「ねえ、名前なんていうの?俺はシン」
ぼんやりとした眼差しのまま、顔だけこちらへ向けられた。
「僕はユウスケ…かもしれない」
「確定させてくれ」
さらに奥の席を見る。
一番左ではヤスがにこにこしながらこちらを見ている。
むしょうに無視したくなったが、そういうわけにもいかなかった。ヤスから話しかけてきたのだ。
「やあ!君、なんて名前?俺のことはヤスって呼んでくれ」
それは、初めて会った時と同じ台詞。
「…俺はシンだ。好きなものは、お金だけだ」
さらににやにやするヤスを気にしないようにして、ヤスの横にいる、残りの2人を見た。
1人はもう、爆睡している。起きそうにない。
もう1人は、なにやらとげとげした空気をまとっている。話しかけづらい。
困っていると、ナオキがちょんちょんと袖を引っ張った。
「寝てるほうはユキトで、話しかけるなオーラのほうはユタカだよ。さっき船に乗る前に名前聞いたんだ」
「へー!そうか。ありがとう」
「ううん。俺もシンのおかげで全員の名前覚えちゃったよ、ありがとね。どうせなら全員で自己紹介すればよかったね」
ナオキが愛想のいい笑顔を見せる。
他のメンバーが協調性なさそうだから、ナオキの笑顔がひときわ輝いて見える。
ナオキがいてよかった…。
しばらくそのまま船に揺られた後、俺たちはあの島に到着した。
少し遊び気分になっていた俺は、ヤスの一言で、自分の役目を思い出す。
「どうだ?好みの男はいたか?」
ヤスは耳元でそうささやき、船から降りていった。
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