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妹の婚約者、菊浪(キクナミ) 朱音(シオン)は夢魔だ。故にその容貌は人を魅了するほど端麗であり、それに相応しい容姿でもある。金に近い色の長めの髪、その毛先は少し癖があって曲線を帯びている。細身に見えるので俺と並ぶと似た体格に見えるが、筋肉はしっかりついており実は俺よりも遙かに逞しい。
その彼は夢魔の中でも高貴な存在で、あちら世界では一目置かれている存在とキャラクター説明にあった。その朱音が選んだ『子を設ける人間の女』が俺の妹の黒乃、だった。
二つ年下の妹は、俺よりも20センチは低いので話すときは常に俺を見上げている。上目遣いがこれまた可愛い。兄バカ、シスコンと皆に言われるが、とにかく妹は愛らしいのだ。肩までの黒髪は艶やかで、黒曜石に似た大きな瞳は神秘的で、その目を見た者は例外なく惹きつけられる。陰陽としての術も達者で、幼少の頃から両親期待の蘭(アララギ)家の次期当主と謳われている。
そんな妹だから、俺は小学六年の時に『護符』を渡した。俺が傍にいなくても彼女があらゆる『邪』を撥ねつけることができるように彼女の体に護符を刻んだ。俺の全ての力を使った護符の存在は、当の妹も両親も誰も知らない。だから俺は両親からは蘭家に生まれたにも関わらず何の力もない、ただの無力な人間と思われている。
ま、それはそれでいい。陰陽の力があろうがなかろうが、蘭家では男は下位の者だからな。
護符を作っておいてなんだが、妹の護符の存在を知られて回収しろ、と言われても実は回収できない。朱音に黒乃を忘れろと囁かれている俺がそれに拮抗できるのは、あの護符が一度作成したらそれを誰にも壊すことができないものだからなのだ。
あの護符は俺の意識が黒乃から離れない限り効果が続く。だから皆既日食の日に力が満ちた朱音は俺を完全に堕とすことになる。
護符は作った者になら回収できると思っている男。俺を洗脳できずにイラつくあの男が毎晩俺を抱く。抱く、というよりもアイツは俺を使って精を放ち、反対に俺の精を喰っているだけだ。あの男にとって糧である精を得るための道具。それを知りつつも、抱かれることを喜ぶ俺はすでに『道具』に堕ちているのだろう。
「体調がすぐれないようだね」
登校中、校門で俺に声を掛けてくれたのは生徒を疑うことを知らない栖本(スモト)先生だ。シリーズ第一弾の攻略キャラだった先生。
「大したことはありません。少し、遅くまで本を読んでいたのでそのせいでしょう」
「そうか? 具合が悪いなら保健室に行くんだよ」
そこまで具合は悪くない。本家から持ってきた本を夜半過ぎまで読んでいただけだ。その後はいつものように朱音に抱かれたけれど、いつものように朝には体は回復していたからな。
心配そうに俺を見ている先生を見てふと頭に浮かんだ疑問。
先生はゲームの攻略キャラだった。この世界では、第一弾のエンディングは誰と迎えているのだろう?
少なくても先生は結婚していないし、今はフリーのはずだ。理事長にお見合いの話を持ち掛けられていたと、先月号外新聞が出ていたから。
「先生。大橋まどかさんってご存知ですか?」
大橋まどかは第一弾のヒロインの名だ。その名を聞いて先生は首を傾げた。
「聞いたこともないね」
先生のその仕草は嘘を言っている様子はない。では、あの『バレンタインまでの10ヶ月』のヒロインはこの世界にはいないのか?
「先生は苦しいくらい誰かを好きになったことはありますか」
「……君は朝から凄いことを聞くね」
先生は苦笑いを浮かべた。
「あったよ。その思いが届くことはなかったけど。でも、彼になら託しても良い、と思った相手と結ばれたからね。私はそれで満足している」
懐かしむような瞳を一瞬見せ、負け惜しみではなくすっきりとした顔で明言する先生を羨ましいと思った。未来を見据える人間の顔だ。
俺も先生と同じようにこの思いが届くことはない。それはわかっている。でも、朱音を誰にも託したくない。彼は誰とも結ばれて欲しくないと願っている。先生とは異なる、このドロドロとした黒い感情を抱く俺は、やはり『人間』ではないのだろう。
『前』の記憶が戻って二ヶ月が過ぎた。
「おはよう、黒乃(クロノ)」
正門前で可愛い黒乃を見つけたので声をかける。振り返った黒乃の目は俺ではなく、隣に立つ朱音(シオン)を映していた。
「おはようございます。朱音さん、お兄さん」
「兄を先に言ってくれないのか、黒乃」
大袈裟に悲しい振りをして見せると、黒乃は肩をすくめた。
「おかしな兄でごめんなさいね、朱音さん。兄は寮で迷惑をかけていませんか?」
「そんなことはないよ。毎日楽しく過ごさせてもらっている」
なあ、と朱音が俺を見る。そこには昨晩のセックスの時に見た妖艶さは一切ない。あのセックスは俺への洗脳を試みただけのものだったということを痛感する。胸のジクリとする重みを意識しながらも黒乃に笑顔を向けた。
「俺は迷惑をかけているつもりはないぞ」
ただ、朱音の邪魔をしているだけ。そしてその復讐に朱音は俺を犯しているだけ。
『前』の記憶が戻ってからは朱音の力が俺に通用しなくなっている。そのせいか、意識を奪われて犯されていた時の記憶も全て戻っているし、毎晩の行為も覚えている。いかに朱音が俺を忌まわしく思い、憎らしく思っているのかを聞かなくても理解できるくらいだ。
それなのに朱音とのセックスを悦び、受け入れている俺。十月に朱音に触れることもできなくなることを嘆いている俺―――
「お兄さん?」
黙りこんだ俺に黒乃が顔を曇らせていた。黒乃の前ではいつもデレデレしている俺が静かなので、心配しているのだろう。
蘭家特有の黒曜石の瞳で見つめられると、無条件で可愛い、愛しいと思ってしまう。この世界は朱音のためにあるが、黒乃が幸せになるようになんとかしなくてはいけないな。
「そうだ、黒乃。今週末の伊南(イナミ)家との食事会、忘れるなよ」
「忘れません。三竹君にも毎日言われています」
黒乃の攻略対象の三竹(ミタケ) 青葉(アオバ)か。
国内外の要人や重鎮たちの『護衛』を生業とする家系、伊南家の分家である三竹家。その三男坊が三竹青葉だ。
伊南家は『対象』をその身で護り、蘭家は陰陽で守る。古より伊南家と蘭家の良家は縁深い付き合いがあるのだ。
「伊南家との食事会か。婚約者の俺が未だ行けないというのはどうしてだろうな」
「黒乃と籍を入れれば参加できるさ。ま、俺がそんなことさせないけどね」
「お兄さん!」
頬を膨らませている黒乃の肩を叩いて、後ろを指差す。
「ほら、三竹君が来たよ。じゃあな」
行くぞ、と朱音に首で合図し正門を潜る。暫し歩いてから目だけを黒乃の方に向ける。
三竹青葉と黒乃が笑っていた。
三竹青葉は黒乃の同級生で、行く末は黒乃の護衛に付きたいと明言している。彼は少々控えめではあるがいい男だと思う。少なくても、黒乃を抱いて捨てる朱音よりは―――
「あ……ふっ」
くちゅ、という水音が室内に響き渡る。
既に勃ち上がっている朱音のぺニスを俺が嘗め、頬張っている音。喉を突くモノに時折嘔吐きながらも、先走りの液と朱音の匂いに酔いしれる。
俺は寝ている状態で支配されていることになっているので、朱音に対して嫌がったり、好きだとか愛していると言うことはできない。辛くても悲しくてもセックスの最中は泣くこともできない。
ただ朱音を喜ばせて精を受け止めるだけだ。だから快感にすがる。それだけを求め続ける。
「ン……はぁ」
「まだ黒乃の護符の効果が切れない。いい加減俺も……」
ちっ、と大きな舌打ちをして朱音が俺の口からぺニスを外し、俺の唾液で濡れたぺニスを目の前で見せつける。
匂いを、味を求めて舌を伸ばす。が、どんなに頑張ってもあと一歩でカリに届かない。
「あ……やぁ……っ」
「普段は済ましてるお前がこんな風に乱れることを知ったら、黒乃はどうするんだろうな」
興味深げに言われてぎくり、とした。
俺のこんな姿を黒乃に見せるのならば、セックスの相手は朱音ではなく他の男になるはずだ。黒乃にこの姿を知られることより、朱音以外の男に抱かれる方が嫌だ。朱音以外の男に抱かれて喜ぶ姿を朱音に見られるのも嫌だ。
だが、今の状態ではそれを言い出すことはできない。ただ無言を通した。
「力が満ちる十月。あと1ヶ月だしそれまでは待つか。この人形は今のところは楽しめるしな」
人形、なんだ。俺は人間ではなく道具でもなく、人形。ああ、それでもいいか。|ただの道具(・・・・・)より、ヒトガタの方がいい。
「続けよう。白夜、自分の孔を準備しろ」
言われて頷く。自分の指を嘗め、朱音の先走りの液を指に絡めて突き入れる。
「ふっ……ぅ……んんっ」
この行為をする度に感じる異物感。
毎日犯されているのに、朱音の力のせいか毎回初めて知る苦痛のような感覚がする。
それでも俺は指を増やしてソコを解す。朱音のぺニスを受け入れるために、体の中に精液を注いでもらうために。
「あぅ…ン……」
乳首を弄る。円を描き、摘まみ、引っ張る。チリチリと痛みも伴う尖ったそこは敏感になり、近くで眺めている朱音の吐息にさえ反応してしまう。
解している孔もヒクヒクと蠢く。この後に待ち受ける快感を予測して、頭の中にも靄がかかる。
「いあ、ぁあ……はぁ……っ」
息があがる。朱音に目を向ければ、俺の痴態から目を逸らすことなくじっとり見ていた。
恥ずかしい。
でも……見て欲しい。俺のこと、少しでもいいから覚えていて。本当に少しでいいから。
「涙が出るくらい気持ち良くなったか」
俺は素直に頷く。朱音が欲しい。俺の中に、朱音の熱を感じたい。朱音の精液を注いでほしい。
黒乃ではなく、俺の中に注いでほしい。
「…んっ…ぅ」
俺は誘うように腰を振り、尻を割って穴を開く。
それに応えるように、朱音は俺の蕾に欲情の棒を突き入れた―――
「何かあったのか」
伊南(イナミ)家の長男、桜雅(オウガ)の第一声だった。
彼はシリーズ第二弾『運命のクリスマス』の攻略対象者だ。表情も口数も少ないキャラ。その彼が俺に声を掛けるなんて珍しいことだ。そもそも、次期当主になる黒乃よりも先に俺に声を掛けるということ自体が今までになかったことだ。
「なにか、とはどういうことでしょう?」
「以前と何かが違う気がする」
「単なる寝不足ですよ。遅くまで護符結界の本を読んでいたもので。心配しないでください。例え俺に何かあったとしても、蘭家には影響はありませんから」
さも当然と言った俺に桜雅が僅かに顔を顰めた。同じ長男として思う所があるのだろう。しかし、蘭家にとっては俺が言った通りだ。俺がいつどこで何があろうとも、黒乃がいる限り蘭家は安泰。俺の代わりなどいくらでもいる。
「桜雅様。一つ教えてください。三竹青葉、彼は将来三竹家を背負える男ですか?」
「黒乃さんを守るためなら、アレはそうするだろう」
「そうですか」
教えてくださりありがとうございます、と頭を下げる。
伊南桜雅が保証したのなら、俺が堕ちた後は三竹青葉に黒乃を託しても大丈夫だな。黒乃の笑顔は朱音や梅比良に対してよりも、三竹青葉に向けたものが一番自然に見えた。
攻略対象である理事長、梅比良(ウメヒラ) 黄河(コウガ)は年上で権力もあるが、蘭家の詳細を知らない男だ。俺が堕ちた後、黒乃が笑顔で幸せに過ごせるのはやはり三竹青葉の方だろう。
俺が黒乃のために動けるのはあと一ヶ月だ。
俺に残された朱音との時間もあと一ヶ月―――
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