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ごめんなさい
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side 真白
お兄さんの寝息が聞こえてきたところで、体を起こしベッドから降りた。
いつもは、僕が目を覚ますとお兄さんも目を覚ました。でも、今日は起きない。
当たり前だ。
僕が、この人に睡眠薬を盛ったのだから。
お兄さんのお友達が、僕に出す薬の中に睡眠薬も入っていた。
薬は全部説明してくれたから、どれが睡眠薬なのかもすぐわかった。
お兄さんがトイレに行っている間に、飲み物にそれを入れた。
お兄さんは僕が怖くないようにと、部屋を真っ暗にはしない。暗くはないから、歩くのに苦労はしなかった。
テーブルの上に置いてあるお兄さんの携帯。
『真白を返してさえくれれば、君に危害は加えないと約束する。それでも返してもらえないのならば、こちらも手段は選ばない』
あの日、お兄さんの携帯にメールが届いた。
きっと、あの人だ。僕が、ここにいるのを知って、送ってきたんだ。
それなら、僕が帰れば、いなくなれば。
この人を傷つけずに済む。
お兄さんの携帯に手を伸ばす。
確か、ここを押すとつくんだよね……?
上の小さいボタンを押すと画面が明るくなった。
お手紙のマークを押すと、文字が打ち込める画面が表示される。
お兄さんの顔を見れば、声を聞けば、きっと帰りたくなくなってしまう。
でも、僕は、ここにいてはいけない。
文字の上に指を置いていく。
何度か、お兄さんが文字を打っているのを見たことがある。
「……かえりたく……ない、よ…」
世界は、痛くて、苦しくて、そんなことしかないんだと思ってた。
こんな思いするくらいなら、いっそ、死んでしまった方がマシだと思った。
でも、この世界にはまだ、たくさんいい事があるんだとあなたは教えてくれた。
抱き締めてくれた腕も
名前を呼んでくれた優しい声も
温かいお風呂も
窓から見た綺麗な雪も
プレゼントも
うさぎさんのりんごも
全部、初めてだった。
嬉しかった。
幸せだった。
「……っ……ごめんなさい…」
助けてくれてありがとう。
たくさん、抱き締めてくれてありがとう。
好きになって、ごめんなさい。
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