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黒い人
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「やっぱり来たね、真白」
外に出た所で声をかけられた。びっくりして、悲鳴を上げそうになる。
この声、聞いたことがある。
今日の昼間に、家に来た人の声に似ている。
「ふふっ、逃げないんだね? お利口さん」
逃げられないことを知っていて、そんなことを言うのか。
意地悪だ、この人は。
「あなたは、誰……」
「言っても覚えていられないくせにー。さ、乗って」
クスクスと笑いながら車のドアを開けられる。
ここで逆らったって、まともに歩けもしない僕は逃げられない。
震える足で、車に乗り込む。
首元にチクリと痛みが走った。
途端、体の力が抜ける。
「着くまで寝てなよ」
そんな声を遠くに聞きながら、僕は眠りに落ちた。
不思議な夢を見た。
誰かが僕を優しく抱き締めている。
あたたかくて、優しい手。
顔は、ぼんやりとしか見えなかった。
「…誰? お兄さん……?」
問いかけても、その人は答えてくれない。
ただ、悲しそうに目を伏せる。
声が聞きたい。
あの優しい声を。
名前を呼んでほしい。
僕の、名前。
あれ……?
名前……僕の、名前は…。
「 」
ゆっくりと、その人の口が動いた。
でも、声が聞こえない。
声を聞かなければ、誰なのかわからない。
名前を呼んでもらわなければ、自分の名前すらわからない。
ぽたりと、顔に温かいものが落ちてきた。
ぽたり、ぽたりと、それは何度も僕の顔に落ちてくる。
「お、に……さ……ん……?」
泣いているのかと思った。
目の前の人が、僕を見下ろす。
その瞳が、一瞬笑ったように見えた。
そして――
「お前のせいだ」
真っ黒の顔の人が、僕を見てお兄さんの声でそう言った。
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