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2人の時間-7
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「トアってさ、本名なんだっけ?」
俺は本名で仕事をやっているが、仕事上名前を変えることの方が多い。
「うん。えっと…アキトさん、紙ある?」
「あるよ。」
机の上にあるチラシとボールペンを取ってやると、懸命に名前を書き始めた。
お世辞にもきれいな字とは言えないけれど、ゆっくりゆっくり丁寧に書いている。
“佐々木翔星”
チラシにはそう書かれていた。
「アキトさん、これ。これ名前。」
「へぇ、これで“トア”って読むの。綺麗な名前だな。」
「名前、いい…?」
「あぁ、とってもいい名前だ。」
褒められたのが嬉しかったのか、くしゃりと目尻を垂れて笑った。
「あっ、アキトさんの名前は…?」
俺はね、とチラシに名前を書く。
“和泉陽斗”
「えと、これなんて読む?ごめんなさい。」
別に謝ることじゃねーよ、と笑い飛ばそうとしてハッと気づいた。
翔星が悔しそうな苦しそうな、泣きそうな顔をしている。
「翔星、大丈夫。読めなくても悪いことなんてないから。」
「怒らない…?」
「怒らないよ。」
よしよし、と頭を撫でてやる。
きっと過去に何かあったのだろう。
字がなかなか読めるようにならなくて、物覚えが良くなくて、学校の先生や親にきつくあたられたことがあるのかもしれない。
「いずみあきとって読むんだ。」
「いずみ…あきと…さん?」
「そ、和泉陽斗。」
「陽斗さん。」
陽斗さん、陽斗さんと呟きながら何度も何度も俺の名前を書いている。
「陽斗さんは誕生日はいつ?」
「9月15日だよー。翔星は?」
「9月18日、だよ。」
「え、まじ?!3日違いじゃん、奇遇だな!!」
「きぐうって…?」
「あ、奇遇ってのはね、すごく偶然っていう意味。」
俺は昔小学校の先生をやりたいと思っていたくらいだからこういうやりとりは全然嫌いじゃないけれど、言葉の説明っていうものは、なかなかに難しい。
小学校の教師、か。
少し、昔のことを思い出してしまった。
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