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「あ…ここで。」
「ん、分かった。」
普段俺は電車で仕事場まで行くから車に乗るのは久々だ。
8時になる少し前、翔星の事務所まで送り届けた。
車を降りようとした時、翔星が振り返った。
そしてちょっと躊躇って
「また会える?」
と首をかしげる。
その首を傾けるヤツ、生殺しだわ。
そんな顔されて駄目だと断れるわけがない。
というか、俺が会いたいんだから。
「翔星が連絡してくれれば。」
“会いたい”
喉元までせり上がってきているのに
何故か言葉にはならない。
「今日するね。家帰ったら。」
「ん。」
翔星の柔らかい髪に触れる。
「あ、あの…いってきます。」
少し照れながら翔星が言う。
「おう、いってらっしゃい。」
ばいばい、と翔星が手を振る。
ああ、“いってきます”っていいな。
まるで一緒に住んでるみたいじゃないか。
“いってきます”があるなら“ただいま”だってきっとある。
翔星のバッグの中にはオルゴールが入っている。
オルゴールという名の、俺と翔星を繋ぐ確かな物体。
翔星の姿が見えなくなってからしばらくの間、俺はそこでぼうっとしていた。
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