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戸惑
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あの人がいた。
名前を見て、同じ名前だと、気づいてはいた。
だけど、まさか戻ってきているなんて可能性は考えなくて。
どうして。どうして。どうして。
嬉、しい。
……………だけれど。
…苦、しい。
戻ってきたとしても、俺は、もう関係を断ち切ったに等しいのだから。
あの時、あの場所で、あの人に、あの、言葉で…
「しつこいのは、嫌いだよ」
そういって。
…そのあと、彼は、いなくなった。
転校した、と知ったのは、彼の友達の雅人くんから聞いた。
…俺は、何も知らなかった。知らされなかった。彼は、俺に一言も、そんなことを言わなかった。
俺に何も告げずに、行ってしまった。
…言えるわけ、ないか。
そう呟いて自嘲する。
「しつこいのは嫌い」
そう言ったのは、俺自身。
彼の事が嫌いだったわけではない。
むしろ好きだった。
優しく笑いかける彼が、彼と話す時間が、とても心地よかった。
じゃあ何故、あんなことを言ったのか。
…男同士だ、という現実。
単に、恥ずかしかったがための、照れ隠し…?
告白を聞いて、言葉に詰まり、咄嗟に出たのが…あの言葉だった。
言ってしまってから、初めて後悔したけれど、彼は、目を伏せて、静かに笑った。
俺は、それで、君が冗談だと、思っていた。
……彼の瞳の中に、悲しみの色を含んでいるのにも気づかずに、いつも通りに接した。
四年前の、幼すぎる自分。
彼との部屋で、誘ってきた男とキスをした。
学校が一緒で別に好きでもなんでもない。
誘われたから、キスをした。
彼を、思い浮かべて。
そこを彼に、見られた。
……また、あの時みたいな、悲しい顔するかな?したら、次こそは、あの時ごめんね、って。言わなきゃ。
だけど、彼は、驚いた顔をしただけ。
とても気まずそうだった。
だから、また俺は……
「邪魔が入っちゃったから、また今度。」
嘘をつく。
自分が嫌になるよ。
また今度、なんて、やだ。
君がいるのに。他の奴なんて。
君に、好きな人が出来るのも………やだ。
俺はなんて、なんて馬鹿でエゴイストなんだろう。
なんて、成長しないんだろう。
………彼が伸ばしてくれた手を振り払ったのは、俺自身だというのに。
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