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不快
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あまりに驚くと、体が動かなくなる。
そんなことを聞いたことがあるような、ないような。だけど、自分の身体なんだから、動かないなんてあり得ない、そう、思っていた。
ドサッ
俺の鞄が、肩からずり落ちる。
鞄を取らなければいけない、そう、思うのに、目が、身体が、ある一点から、ずらすことができない。釘付けに、なる。
俺の、目の前で、俺の、部屋で、起こっているこの光景は、果たして現実なのか。
現実だとは、思わない。…思いたく、ない。これは、悪夢か、何かだ。
俺の目に映っているのは、俺のルームメイトの近藤裕貴と、俺の友達の中井 亜希(なかい あき)のキスシーンだった。
…なん、で?……なんで…?
なんでこの2人が、キス、してるの…?
頭が回らない。
歯が噛み合わず、僅かながらカチカチと震える。身体が、冷える。
「奪っちゃったぁ」
亜希はこっちをちらっ、と見てから近藤の方に顔を向けにこりと笑って、そう言った。
「あ…き……?」
乾いてくっついた唇をようやく開けて辛うじて出てきたのは、たったのこれだけ。
亜希が、にこりと、怖いくらい綺麗な笑顔を俺に向けた。だけど、目は笑っていなくて、恐ろしいほど、僕を睨みつけているのを感じる。
「なぁに?」
その笑顔のまま、彼は動かない近藤の首元に腕を回し、抱きついた。…近藤は、座ったまま、動かない。
「な、何やってんだよ。ここで、なに、してん「ぇえ?見てわからなかった?キス。」
なんで?なんで?なんでなんでなんで。
近藤は、まだ微動だにしない。なんで?亜希と付き合ってるの?どうして?俺のこと好きだっていったのに。亜希だって、中学の時、ほとんど近藤と喋ったこと、なかったはず、なのに。
「なん、で?」
「は?…えー。ちょっとそこは空気読んでよぉ。僕、好きだったんだよねぇ。近藤君のこと。中学の、近藤君が転校する前もした後もずぅっと。」
そういう彼の目は、本気で。
「え……じゃ、じゃあ、2人は、付き合ってる…の?」
…出来れば、答えを聞きたくなかった。
もしも2人が付き合っていたら…?
怖い。怖い。怖い。
答えを、聞くのが、怖い。
「もーー。しつこいの嫌いなんだけど。ちょっともう、どっかいってくんない?」
心臓が、止まった気がした。
俺は、近藤が告白して来た時、そう、返した。というか、告白してきた人には、全てこう返してきた。
シツコイノキライナンダケド
自分が今まで、こう返してきたのに、とても苦しくて、張り裂けそうになる。
目に涙が滲んで、嗚咽が漏れそうになる。
今まで俺がそう言って断った人達は皆、こんなに苦しくて胸が張り裂けそうに痛かったのだろうか。俺は、どれだけの人を、こんな気持ちにさせていたのだろうか。好きじゃないから断るにしても、…わざわざこんな言葉で、傷つけていたのだろうか。
一瞬目があった近藤にばれないように背を向けて、部屋を飛び出した。
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