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猪俣先生②
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(葵語り)
ホテルを出ると辺りは真っ暗だった。
時間は10時を過ぎている。
あんまりフラフラしていると目立つから、足早に駅へと急いだ。
久しぶりに先生会えて気分が上々だった。
1ヶ月ぶりくらいかな。
学校で突然今日会えない?って言われた時、うれしくて先生の顔がまともに見れなかった。
先生との関係は1年前くらい前から始まった。
猪俣先生は、1年生の時の担任だった。
苦手な生物を教えてもらうため、俺は準備室に通った。
赤点が、次のテストで80点になった。
テストが終わっても先生に会いたくて、用を見つけては準備室に通った。
恋に落ちるのは簡単だった。
大変なのはその後だ。
先生は結婚してたんだ。
知らなかった訳じゃない。
左薬指には指輪をしているのを見ていた。
俺は思ってたよりずっとずっと子供だった。
欲しくてたまらないものを、泣いて喚いても手に入らないものを我慢するには、聞き分けのいい子供を演じるしかなかった。
そうしたら、先生は頭を撫でて『葵、いいこだね』と言ってくれる。
大きな先生の手も大好きだった。
「ちょっと君、東高の生徒じゃない?」
俯き気味で歩いていたにも関わらず、駅前で声を掛けられた。
やばい、見つかった。
「そうだよね。制服、うちの高校だね。」
その人はまじまじと俺を見た。
猪俣先生と変わらないくらいの年齢の先生だ。
この先生…誰だろう。
見たことはあるけど、名前が分からない。
「あ……はい。」
「こんな時間に何してるの?」
「友達のところに…」
咄嗟に出た言い訳だった。友達なんかこの辺に住んでいない。
「友達?誰?」
強めに詰問された。
「えっと中学の時の友達です。」
「君、組と名前を教えて。明日、放課後に生徒指導室に来るように。」
「あ…はい。2年3組の伊藤 葵です。」
その人は俺の名前を何かにメモした。
「伊藤君、駅はすぐそこだから、気をつけて。最寄りの駅までおうちの人に迎えに来てもらうように。」
そう言われて、解放される。
一気に気分が盛り下がり、先生の名残が台無しになった。
明日、聞かれたら何て説明しようか困った。
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