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放課後①
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(葵語り)
その日は朝から俺の嫌いな雨だった。
熊谷先生が出張で朝から不在なので、俺はお昼ご飯をハルト達と食べた。
俺が熊谷先生と昼休みを過ごしていることをハルト達は何も言わない。
補習か何かと思ってるのだろう。
雨だから部活は自主練になるかもって話してたら、カバンの中のスマホが振動した。
手を入れてコソッと中身を見る。
先生からのメールだった。
『今日、会えないかな?』という内容に、一瞬ですべてのことがどうでもよくなる。
放課後、いつもの場所で先生に会える。
大好きな手に触れてもらえる。
『大丈夫です』と返信したら、
『いつもの駅に5時過ぎに迎えに行くから』とすぐ返事がきた。
少しの間だけでも俺のことを見てほしい。
名前を呼んで、好きだよと嘘でもいいから言ってほしい。
『自分を大切にして欲しい。猪俣はずるい奴だから』と熊谷先生の言ってたことが頭の隅で聞こえた気がした。
ずるいのはきっと俺だから、先生は何も悪くない。
「おい、葵ってば聞いてる?」
ハルトの声で、ふいに現実へ戻される。
「ごめん、今日も部活休むわ。」
「どーせ自主練だし、葵が休むなら俺も休もうかな。」
「葵もハルトも来ないなら俺たちも休もうかな。ダルいし。」
クラスの奴の笑い声が教室に響いた。
もうすぐ、先生に会える。
それだけで午後の授業は上の空になりそうだった。
放課後、5時を少し過ぎた頃、駅前まで先生が迎えに来た。
車の中で抱きつきたい衝動に駆られるが、我慢した。
だって……こういうことは先生は好きじゃないから。
その代わり、先生の手をぎゅっと握った。
「葵?どうした?」
俺の名前を優しく呼んでくれた。
「先生、会いたかった。」
「俺もだよ。」
鼻の奥がツンとして涙が出そうになる。
先生が隣にいて、俺のことを見ていてくれて、それだけで十分な気がした。
「どこにいこうか?お腹空いてない?」
「空いてない。先生と二人きりになれるところがいい。」
「わかった。」
ふいに俺の携帯が鳴った。
おかしいな、マナーモードのままのはずだったんだけど。
「電話だよ。」
運転しながら先生が言う。
「出なきゃだめだよ。急ぎだったらどうするの?」
「………」
携帯のディスプレイには『熊谷先生』と表示されていた。
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