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山本先輩②
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(葵語り)
「あー、伊藤 葵、やっぱここにいた。この幽霊部員、今日こそ部活来いよ。」
突然扉が開いて入ってきたのは、サッカー部副部長の山本先輩だった。
山本先輩は、サッカー部のアイドルだ。
女子にモテモテでいつも噂が絶えないイケメンだと言われている。
そんな人が俺に何の用だろうか。
「山本、何しに来たの?」
熊谷先生は、頬杖をついたまま怠そうに言った。
なんか先輩に対する扱いが雑な気がする。
「熊谷先生、こいつ全く部活にこないんすよ。もうすぐ大会だし。人数が足りないから伊藤には絶対出てもらわないと。スタメンじゃないですけど。」
最近部活はサボリがちだ。
どうしても優先順位が下の方になってしまう。
「それはよくない。伊藤君、サボるのもほどほどに。放課後は部活で健全に汗を流そう。高校生らしく健全にな。」
熊谷先生が右首筋のバンドエイドをするりと指でなぞった。
あ、ここに貼っていること知っていたんだ。
俺は、恥ずかしくて思わず下を向いた。
先生につけられたキスマークが、かなり濃く残ってたので目立つからバンドエイドを貼った。
バンドエイドも目立つが、キスマークを人目に晒すよりはいいと思った苦肉の策だった。
「あの……これは虫に…」
「ふうん。虫ねえ。そんなに大きな痣を虫が付けるの?」
俺と熊谷先生のやり取りをじっと見てた山本先輩が、興奮気味に口を開いた。
「お前、部活をサボるのはそうだったのか。女なのか?そうか。やっぱ綺麗な顔した奴は、女が寄ってくるのか。」
女…というか……なんというか…
熊谷先生が笑うのを必死でこらえている。
何で笑うの?笑う所じゃないよ。
それに山本先輩だってモテるじゃん。
「いえ、女じゃなくて……」
「伊藤君、素直過ぎる。そこまで言わなくていいから。」
熊谷先生がお腹を抱えて笑い出した。
んもう、そこまで笑わなくてもいいのに。
「山本、伊藤君をこれから部活をさぼらないように引きずってでも、連れて行ってやってくれ。
高校生は女より部活だよな。」
「ええ。熊谷先生も分かってますね。まったくその通りです。伊藤、俺が教室まで呼びにいってやるから一緒に行こうな。サッカーしようぜ。」
「…………は、はい。」
ちょっと熱くてウザい先輩だけど、実は話してみるといい人だったりした。
この日から山本先輩に毎日部活へ連れていかれることになった。
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