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涙のキス③
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(葵語り)
沢山キスをした。
俺が立っていられなくなって座り込んでしまっても、それはずっと続いた。
チュッチュッとリップ音が聞こえる度、熊谷先生が愛しく思える。
口が離れると、再び抱きしめてくれた。
熊谷先生はいい匂いがする。
それは煙草の匂いとも違う、甘い香りだった。
抱擁が終わると、隣同士で座った。
「伊藤君、あのさ。」
「あおい、でいいです。」
静かな部屋に熊谷先生の低めの声が響いた。
授業が始まったらしく、辺りは静かだ。
「……葵、なんか恥ずかしいな。さっきまで赤点で怒ってたのに。」
そうだった。怒られてた。
「ふふふふ、そうですね。」
熊谷先生が指を絡ませてきた。
大きな手。指が細くて形がいい。
「今から独り言を言うけど、流して聞いてほしい。」
「………はい?」
握っている熊谷先生の手に力が入った。
「俺は少し前から君が気になっていた。
生徒だからとか考える前に、君に魅入られていたんだと思う。
キスしたのも、こうやって手を握るのも、好きだから、だからやった。
俺は葵が好きだ。」
突然の告白に言葉が出なかった。
胸がきゅんとなる。
面と向かってストレートに告白されるのは初めてだった。
「俺が言うのもなんですけど、男だし、生徒ですよ。」
「あ、うん。そうなんだよな。不思議とそれは気にならなくて、素直に葵が好きなんだよ。
猪俣を好きなのも、離れられないのも分かっている。葵が一番居たい人の所に行けばいいから。
葵に笑っていてほしいんだ。
お昼ご飯も好きに食べていいよ。
もうここに来なくていいから。ごめんな。」
もう来なくていいと、突き放すように言われて悲しくなった。
それにまだ教えてもらいたいことがある。
「俺、自分を大切にする言葉の意味がまだよく分かりません。」
「そうなの?現代文赤点だったしな。しょうがないか。」
人を馬鹿にしてる……。
「だから、しばらくここでお昼ご飯食べてもいいですか?」
「えっ........もちろん、いいけど。」
熊谷先生は笑った。
どっちを選ぶなんて俺には分からない。
選ぶ立場にあるとも思わない。
熊谷先生の笑顔を見て、この笑顔に包まれたら幸せなんだろうなと思った。
熊谷先生と一緒に居れたら。
そんなことは今の俺には許されない。
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