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さようなら、こんにちは④
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(猪俣先生語り)
葵が夏休み前から会ってくれなくなり、終わりは予感していた。
漠然と別れを感じていた。
それはどす黒いコールタールの様に俺の心を侵食していった。
葵が俺から離れようとしていることを認めたくなかった。直視したら真っ暗なそれに、あっという間に飲み込まれそうだった。
かわいい、かわいい、俺の葵。
先生が好きって言ってくれたこと、俺には家族が居て、気持ちには応えらないと言ってもそれでもいいと笑ってくれたこと。
堕ちていくのは分かっていた。
葵という名の柔らかい棘に絡みつかれて動けなくなっていた。葵の弱さと優しさに付け込んだ、俺は悪い大人だ。
旧校舎の使われていない教室に入ると、カビ臭い匂いが鼻をついた。
来年には取り壊される予定だから、悪い思い出も一緒に持って行ってくれるかな。
「あの……先生。」
葵が口を開いた。
これから俺は振られると思うと哀しくなった。本当は続きは聞きたくない。
「俺、先生との関係を終わりにしたいです。」
最後だけでもかっこよくいたかった。
これからは俺に振り回されたり、泣いたり、笑ったりしてくれなくなるんだな、と思ったら鼻の奥がツーンとして涙が出そうになる。
葵が出した答えを俺は受け入れよう。
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