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まあまあ可愛いかもしれない
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朝、起きんのがつらくなってきた。そもそも俺は朝に弱い、寒さにも弱い、もぞっと布団の中で寝返りをうつ。あー幸せ、極楽、天国、もう一眠りすっか。ぼんやりする頭、覚醒しきってない頭でそんなことを思いながら夢の世界へ再び行こうとする。が、そういうわけにもいかない。今日は平日だ、学校が普通にある。無理だ、起きれない。寝たい。エンドレス。
なかなか布団から出れないでいると、部屋のドアが開いた音がした。ぺた、ぺた、と足音が近づいてくる。「おい」と、もう随分と聞き慣れた掠れ声が俺を呼ぶ。その声の持ち主がハナクソだと、俺はドアが開いたときから分かっていた。分かっていても布団からはでない、起きるつもりはない。なぜなら起こしに来たのがハナクソだからだ。ムカつくからだ。この光景も、もう珍しくもなくなったけど。慣れない。
「起きろよ、遅刻する」
俺の肩を揺する手のひらは紛れもなく男のもんだ。薄くてデカくてゴツゴツしてる。可愛い女の子(二次元)と付き合うっていう夢は半年前に崩れ去った。ハナクソのせいだ。やっぱりこいつがすべて狂わせやがった。あーむかつく、あー!ムカつく!こんな奴を、その…、あれだ、なんでか俺は、…になっちまったから、…うん。ムカつくけど、ムカつくし殴りたいけど、まあ、アレだ。そーいうことだ。
でもなんか俺ばっかり余裕ないのは釈だから、寝たふりを決め込んで、寝返りをうち、ハナクソに背を向ける。さらに布団を深くまで被ると、ふぅ、とハナクソがため息をついた。
布団最高。本気でこのまま寝れそう、オヤスミ。学校は一人で行ってくれたまえハナクソくん。意識を夢の中に移そうとすると、思ったより近くで、耳元でハナクソの声が聞こえた。
「無視してんじゃねぇよ、起きろって。きよ…、柳クン。」
耳にふっ!と息をふきかけられた。ぞわっ、と全身の毛がよだつ。思わず勢いよく起き上がって、息を吹きかけられた方の耳を抑えながらハナクソをみつめると、してやったり、とでも言いたそうな顔でニヤニヤと笑ってやがる。
「おはよ。…さっさと着替えろバァカ!あと20分で家出ねーと間に合わねぇよ!」
「テメーどうしてくれんだよ!!耳の奥めちゃくちゃ痒くなっただろ!」
「起きねぇお前が悪いんじゃねーの?!毎朝毎朝早めに起こしにきてる俺の身にもなれよくそワカメ!」
「はぁ?!とんだハナクソちゃんだなァ?!んじゃあ毎朝俺のこと迎えにこなくていいから、先に学校行けばいいだろ!」
「あん?冬になったらすぐ遅刻するじゃねーかお前!ったく、俺がいねーとなーんもできねぇんじゃいかんよ?もう高校生だろ?柳クンよぉ」
「バカにしてんのかこのクソハナクソ!お前のせいでずっと無遅刻っつーのもなんか釈だな、やっぱお前明日から来なくていいわ、独り立ちすっから」
ハンガーにかかっていた俺の制服を手にとったハナクソは、それを乱暴に投げつけてきたりもせず、普通に手渡してくる。俺はそれを受け取り、着替えようとTシャツに手をかけた。
「まじで明日から来なくていいわけ」
頭上から降ってきた言葉。反応しようとパッ、と顔をあげると、ハナクソはぽりぽりと頬をかいていた。
「お前と学校いくの、結構すきだったんだけど。」
………。
神よ。こんなあざとい男を生かしておいていいのですか?
バチッ。目が合う。唇を尖らせたハナクソは、拗ねた顔を見せて「…なんだよ」と言った。なんだよってこっちの台詞なんだけど。
困る。困った。
こいつの言動行動にいちいち心臓をもっていかれる。回復薬はない。こいつと晴れて付き合うことになっても、俺ばっかり振り回されてもう瀕死。こいつごと回収したはいいけど、キモいぐらいにハマっていく。
よく、半年も我慢したもんだ。
…我慢、つーか。どうすりゃいいのかわかんなかっただけ、だけど。
「お前さぁ、そういうこと言うなよ!まじクソウザい!ったくもう、じゃあ、明日は俺がいく、から。」
「…おー。待ってるわ。お前、遅刻してきたらぶっ飛ばすからな?つーかまじ早く着替えて?時間ねーっつの!」
「わーってるからシャツ引っ張んな!脱ぐよ!脱ぐ脱ぐ!」
着ていたTシャツを脱いで、インナーを着ようとすると、背後からハナクソの視線を感じた。何見てんの、と振り返って言う前に、ハナクソの手が伸びてきて「すっげー筋肉。」の言葉と共に、冷たい手のひらがぴとっと背中にくっつけられる。
「つ、っめてぇなァ!触んなハナクソ!」
「あ、ワリ、手ェ冷たいの忘れてたわ。何食ったらそんなんなんの?俺と身長変わんなかったくせにずるいつーの!」
「お前とは遺伝子から質がちげーってことだな」
「てめぇ俺の両親に謝れよ?!」
す、と離れていった手のひら、ぶつぶつと不満そうになにかを呟いているハナクソ。…さっき、触られた背中が、心なしか熱い。こいつの手のひらは冷たかったのに。熱いなんてどうかしてんじゃねぇの!
意識しすぎだ、俺…!
いくらなんでもダセェ、こんなぐらいでなんだっていうんだよ…!
こんなぐらい、のことでもさ、いちいち過剰に反応するようになっちまった。まじでクソだわゴミだわハナクソだわ、こいつを…うん、こいつを、…に、なって、散々なことばっかりだ。胸は苦しいし、なんか変に楽しいし、全然可愛くねーのに、なんか照れるし。キモすぎてやばい。もうやばい、キモい。自分がキモい!
制服に袖を通す。ズボンも着替え、髪を適当に整えていると
「お前それ寝癖?髪ハネすぎててよくわかんねーことなってっけどいいわけ?」
なんてことを聞いてきやがった。ニヤニヤしたそのツラぶんなぐって潰して琵琶湖に沈めたい。天パなんだよ!しょーがねぇだろ!
つーか目覚めたときと同じ顔、その顔くそウザい。顔面めり込みキックとかしたくなるぐらいには。…あ。
そうだ、このニヤニヤ顔のせいで忘れた。
「なぁ。おはよう。……りょうすけ」
ほら、おはようって言われたら、おはようっていわねーとな?
昨日、二人んときは、その、名前で呼ぶっていったから、…うん。
ぼぼっ、と顔が熱くなる。思わず口元を隠しつつ、鏡ごしにハナクソを見ると、顔どころか首まで真っ赤にしたハナクソがバリバリと頭を掻きむしっていた。
「…なんか、照れんね。」
ハナクソの表情がかたい。ちょっとしたニヤけ顔がウザイ。嬉しいのか恥ずかしいのかわかんねーみたいなツラ。
…さっきのさっきのさっきあたりの言葉訂正。余裕ないのは俺だけじゃないらしい。なんだ、こいつも鼻頭折りたいぐらいにはムカつくけど、まあまあ、まあまあ、可愛いとこ、あるな。まあまあだけど!モモちゃんには遠く及ばないけど!
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