アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
死ぬほど惚れてる
-
村上さんが何か深刻な顔でポツポツと話をしてきたけどほとんど内容を覚えてない。へー、と、ふーん、と、そっすか。この3つだけで相槌を打っていたからだ。その間俺はずっとハナクソのことを考えていて、今日の夜はこの村上という女に絡まれたことの愚痴を話して、笑い飛ばしてもらえたらスッキリするだろうな、とか、あわよくば抱きしめたりキスしたり、なんかそういうことしてーな、とか。ああその前に、ハナクソの家もそれなりに複雑だから家族で出かけることなんて滅多にないから、今日の感想とか。葵の話とか、聞きたいな。とか。もうとにかく、さっさとコーヒーのみ終わってくんねーかな、つーかもう冷めてんだろそれ、なんてことを思っていた。
「話きいてくれてありがと、…少しスッキリした!もう室井先輩のことは忘れて、新しい恋に生きようとおもう!」
「ああ」
「突然こんな話ごめんね、松くんにも迷惑かけちゃったなぁ」
「え?」
「協力してもらってたから…。でも室井先輩に彼女がいるなら困らせるわけにもいかないし!」
ああ、室井先輩の話か。俺は今室井先輩の話をされてたのか。つーかあの人に彼女なんかいねーよ、彼氏はいるけど。ハナクソがなんかうまいこと誤魔化したんだな。全然話きいてなかったけどあれか、失恋した話をされてたわけか俺は。
女ってコエーー。今日初めて話すような男に失恋した話するとか強すぎる。適当に受け答えしててよかったとさえ思うぐらいには怖い。
「あっ、やだ、コーヒーさめちゃった。…時間も結構たってるし、私そろそろ帰ろうかな。ごめんね付き合わせちゃって」
「いや、別に。…まあ、がんばれ」
「…うん、ほんとにやさしいね」
ありがとう、と言いながら、村上さんは席を立った。キャラメルフラペチーノも飲み終わったことだし、俺も帰ろうと思って席をたつ。
トレイを返却台に返して、カフェをでた。空はもう暗くなりかかっていて、遠くの空には星が見える。
村上さんとは途中まで方向が一緒だった…というか帰宅路の途中に村上さんの家があった。べつに送るつもりなんかなかったのに家まで送ったみたいになって、「送ってくれてありがとう!」とか言われた。いや送ってませんけど…って思ったけどなんかもうめんどくさくなって「べつに。んじゃ」と言って、俺は帰ろうとした。
「…まって!」
静止の声。なんすか、と呆れ気味に振り返ると、村上さんが駆け寄ってくる。
「…柳くんの、ラインおしえてくれない?」
「………………。なんで?」
「なんで、って…えっと、もっとお話ししたくて」
たまたまだ。
たまたま同じカフェの隣にすわって、話が弾んだ…っていうか話しかけられてうまく逃げ切れなかっただけだ。それなのにもっと話がしたい?ってなんだそりゃ。べつにクラスも違うし、これ以上仲良くなるいもりなんかない。それに、俺はハナクソを不安にさせるようなことは絶対にしない。
女と連絡先を交換するぐらいで、あいつは妬いたりしないかもしれない。でも俺は妬いたりする方だし、連絡先を交換したら浮気とみなす!とか、前に口走ったことがあるぐらいだ。だから今回、ハナクソが村上さんと連絡先を交換した理由を俺に詳しく話してくれたんだと思う。俺も納得した。だって友人として成り立った関係だってことが分かってたからだ。村上さんには好きな人がいて、それがハナクソじゃなかったからだ。
でも今は?
話はほとんど聞いてなかったけど、失恋した的なことを言ってた。新しい恋に生きようみたいなことを言ってた。その矢先に連絡先を教えてほしい、なんて、自惚れだったらちょっとアレだけど…普通に怪しむだろ。
俺が怪しむことを、ハナクソが怪しまないはずがない。
「…悪いけど、無理。」
俺は、正直。まわりにどう思われてもいい方だ。冷たいやつだと思われても無愛想なやつだと思われてもいい。ハナクソと違って、俺は自分の評価を気にしないから。
「…彼女、いるとか?」
「彼女じゃねぇけど。絶対に裏切れない奴がいる。」
ここで、ハナクソと付き合ってるとか答えるのは簡単だ。簡単だけどハナクソはそれを絶対に望まない。だから彼女じゃない、と答える。まあ嘘じゃない。彼女じゃないけど恋人だ。絶対裏切れない恋人だ。下を向いていた村上さんが顔をあげて、俺のコートの袖を握った。
「ただ話したいだけだよ?」
「学校で話して。」
それをすぐに振り払う。
「…ガードかたいね?」
「……。もういい?帰るけど」
「いいよ、わかった。…学校で話しかけるね」
「そうして。じゃ」
そっけなく返事をして、その場を後にする。村上さんはアレか、男見る目ねぇのか、それとも相手がいるやつに惹かれるめんどくさい体質か、惚れやすいかのどれかだな。
あー疲れた。…気分転換に外にでたのに、なんか疲れたわ。
スマホをポケット取り出す。時間は午後の17時すぎだった。ロックを解除して、真っ先にラインを開いた。
今朝ぶりのハナクソとのライン、どうでもいい話をたんたんとしているそれを読み返す。そしたらますます、ますます顔がみたくなった。
患ってる、たしかに俺は恋を患ってる。だから会いたくなるのもしかたないことだ。なんて言ったらいいかよくわかんねぇけど、もうとにかく、とにかくハナクソと話したかった。
『家ついたら連絡しろ』
『無性に会いたい、お前に』
そう送って、自分も素直になったよな、としみじみ思う。帰り道、風がひどく冷たくて身震いをした。あーさっさと帰ろう、あったかい部屋でハナクソの帰りを待って、んで抱きしめて安堵したい。
ブーッブーッとスマホが震えた。確認するとハナクソからのラインで、『なんだよキモいな』ときた。あーもーー、だいたい想像つくぞ、今絶対照れてるし唇噛んでるに決まってる!
『もー家だよ』
『そんなに俺に会いたいか、そーですか』
『じゃあウチに晩飯食いにくる?』
『今日は俺のお手製鍋です』
『今からお前を煮込んでやるぞ〜』
ラインがぽんぽん飛んできたあとに、まだ昆布だしをとってる段階の鍋の写メが送られてきた。ディスられてんのに、なんか俺多分やばいんだと思うけど、そのラインの内容にほっこりしてしまった。
『ワカメじゃねーのかよ』
『マジでウザいよなお前』
『今からいく』
そう送ってから、自宅に電話をかける。電話を受けたのは姉貴で、ハナクソの家でメシ食うってことを伝えたら軽く了解された。こういうのも日常化しているのに「今度は涼介くんウチに呼びなよ、貰ってばっかじゃだめだからね」と言われた。
そうだよな。
俺はハナクソに、貰ってばっかだ。
メシだけじゃなくて、色々と。
電話を切ったら、ラインの通知が入っていて、ハナクソが昆布を摘んでニヤニヤしてる写真が送られてきていた。めちゃくちゃ腹たつ顔してる。目の前にいたら殴るレベルにウザい。だけど『待ってる』って言葉が添えられていたら、そんなもんどーでもよくなったし、俺は自然とその画像を保存していた。…まじで、やっぱ、これは…俺がベタ惚れでやばい証拠になると思う。
自然と急足になってたからから、予想より早くマンションについた。ロビーで鍵をあけて、エレベーターにのりこむ。七階のボタンをおして、自分がすこしそわそわしていることに気づいて、もうマジでやばいな。と小さくため息をついた。七階についたら目の前にあるハナクソの部屋のインターホンを押す。ドアの向こう側からバタバタと走る音と、「あおいーー!まてって!」というハナクソの声と「わかめくんが来たー!」っていう葵ちゃんの声がした。そしてすぐにがちゃ、と部屋の扉が開けられて、真っ先に出てきたのは葵ちゃん、その後ろから追いかけるように出てきたのがハナクソだ。ハナクソの姿をみた途端、ぐわっ、と、胸がいっぱいになった。
「いらっしゃい!わかめくん!」
ぎゅーーっ、と、俺の足に抱きついてくる葵ちゃん。ハナクソが扉を抑えながら「入れよ」という。
無理だ、俺やっぱ無理だわ。好きだ、意味不明なぐらい。
一歩玄関に踏み込んですぐに葵ちゃんの目を右手のひらで隠す。
「ただいま」
ハナクソの唇に、噛み付くようにキスをした。葵ちゃんに気づかれないように音を立てずに唇を離すと、ハナクソはぽかんとした顔をした顔をして、すぐに首まで赤く染まる。
「ばっっっっかじゃねーの!?ッッ、…お邪魔しますだろ!あほ!」
「親は?中?」
「中だよ!!!」
「先に挨拶してくるわ。葵、いこ」
「? うん!ねーねーどうしていまおめめかくしたのー?」
「ひみつ」
きっと今、俺の後ろでめちゃくちゃ顔を赤くして、悔しそうな顔をしてるんだろうな。見なくても分かる。
俺、こいつを好きでよかったな。
ほんとに、なんか。さっきまでのことがどうでもよくなってきた。
リビングのドアをあけて、ソファに座ってるハナクソの両親にはちゃんとお邪魔しますと言ったら、ハナクソは俺の後から部屋に入ってきて、俺の背中を一度ばしっと叩いてきた。
っもう、照れ隠しがいちいちムカつくぐらい可愛いんだよ!!!あとでしばく!!!
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 72