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まずはお勉強から
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結局俺がチャリ漕ぐフラグが立つし。
まあ、体格的にあいつが前に乗るなんて無理もいいとこだから許してやろう。俺ってトテモヤサシイ。
この街は長閑だ。閑静な住宅地、近くに駅も郵便局もコンビニも、大型ショッピングモールもある。特別都会なわけでもなければ、特別田舎なわけでもない。山は見えるけど、山まで行くなら電車使わなきゃなんないし、河川敷はあるけど、なんでかずっと立ち入り禁止なんだよな。そんな、チャリさえあれば、特段不便だとは感じない街、俺とこいつが生まれ育った街。学校から家までは、徒歩20分。こいつと通学、帰宅するようになってからはもっぱらチャリになったけど、この通学路を今まではずっと歩いていた。俺たちが二人乗りチャリ通になったのには、いくつか理由がある。
ひとつめは、学校帰りに葵ちゃんの迎えにいくことが日常になったから。ふたつめは、寒くなってきて俺が布団から出るまでに時間がかかるようになったから。みっつめは…察してくれ。
別に二人乗りをする必要はない。
俺もあいつもそう思っているけれど、お互い口にはださない。暗黙の了解ってやつ?
ま、あれだ。寒いから、後ろにひっついてくれりゃ暖かいし。それだけだ。別に他に意味はない、…意味はない!
いつもなら、このまま双葉幼稚園に向かうんだけど、今日は珍しい。ハナクソから寄り道を提案されたのは初めてかもしれない。葵ちゃんの迎えはいいのか、と言いたいけれど、まあ、ツタヤにいくぐらいそんなに時間はかからないだろう。仕方ないから付き合ってやるよ、俺は大人だからな。
「なにしてんだよ、早く乗れば」
ちゃりに跨って携帯をいじる。姉ちゃんからのラインに返事を返しつつハナクソのことを待っていても、一向にハナクソが荷台にのる気配はない。振り返ってすこし離れたところにいるハナクソに声をかけたら、ハナクソは隣のクラスの女子軍に捕まっていた。
「松ー!来週オケオールいかない?合コンすんの。他校の女子呼んでるからさ、アンタも男何人か用意してよ」
「俺、オケオールとか健康すぎてスグ寝るっつーの!パース」
「アンタ最近ノリ悪いよー?なに?彼女できたの?」
「おー、ミサトちゃんするどい!大正解!ラブラブ中だからごめんな?誤解されたくねーから俺は行かねーけど、男なら呼んでやんよ」
「あははっ、鈍い男だねー!アンタ狙いの子がいるから誘ったのに、残念」
「まじ?俺すげーモテんね?俺よりもっとツラのいい奴誘っとくから勘弁して?んじゃ、ワカメ呼んでっから俺帰んね、ばいばーい」
愛想のいい笑顔で手を振って、小走りでこっちにやってくるハナクソ。女子軍に背を向けた瞬間の冷たい表情、それをあの子たちに見せてやりたい。っつーか!
「だぁれがラブラブだよキモい!」
ハナクソはこれだからムカつくんだよ!もっとなんか、あっただろ、断り方がよ…なんなんだよ、現状に満足してます、みたいな言い方しやがって、あーくそ、あーー!
…いろいろ足んねーと思ってんのは俺だけかよ、くそが。
イライラする…!むかつく…!背負っていた黒いリュックをハナクソに押し付けるように渡すと、特に何か文句を言う訳でもなく、ハナクソは俺のリュックを抱きかかえた。その代わりに減らず口は叩いてくる、殴りたい。
「ワカメくーん?耳赤いぜー?」
「ニヤニヤ笑ってんじゃねぇよ!アホか!寒いからに決まってんだろ!さっさと乗れ!アホ!アーホ!」
「ガキかお前?!乗ってるっつーの!早く駅前のツタヤまで走れよワカメ号!」
「お前がガリ細だから乗ってんの気づかねーんだよ!『乗りました柳様どうぞ進んで下さいませ』ぐらい言ってみろこのハナクソ!」
「こっの…お前まじで!クソむかつく!」
ごんっ、と、鈍い音がして、ハナクソのおでこが俺の背骨に当たった。軽い頭突き、そのまま体温が背中越しに伝わる。
しばらくチャリを漕いでいると、突然「仕返し」、と言って、ハナクソは冷たい指先を俺のうなじに引っ付けてきた。ヒッ、と情けない声が咄嗟に漏れる。バッ振り向いて睨みつけると、俺にもたれながらリュックを抱きかかえたハナクソがケラケラと笑っている。殺したい。つーか、なに。寒いの? ハナクソの鼻が赤い。マヌケ。
「オイ、チンゲ。前見てチャリ漕げよ危ねぇだろ!」
「うっせぇな、振り落とすぞ。つーか、…なんでツタヤ?お前何かりんの?」
ふい。
前を向き直して、ちゃりを漕ぐ。ハナクソは暫くなんにも言わなかったけれど、制服の上から着ていたコートのフードを、ぐいっ、ぐいっと引っ張ってくる。
「ウザイ。気が散る。決定、言わねぇなら振り落とす!」
「ぎゃああぁスピードあげんなテメェ!!誰のリュック持ってやってると思ってんだよ!これこそ落とすぞ!!」
「その中にはモモちゃん(PSP)がいるんだよ!!落としたらマジで八つ裂きにする!!」
「あーもう、今日、みんな旅行いってんだよ!!!」
「…は?」
チャリを漕ぐスピードを緩めると、ハナクソは気まずそうな声色で続きを話し始めた。駅前のツタヤまで、あと5分もかからない。
「だから、今日、みんな、旅行に、いってんの!」
「ふーん。えっ、葵ちゃんもかよ」
「そー言ってじゃん。…で、暇だからさ、暇だから、……お前今日泊りにこい、ヨ」
呆れたアホだ、こいつ。
俺がお前と密室で夜を?ともに?明かすの?朝日登んの見届けたりすんの?馬鹿?
オマエはコイビトと一夜過ごすってなったら平常心でいれんのかよハナクソ…!!
「無理。アホかおまえ、アホか?無理。いかねぇ。一人大人しくDVD見て寝ろ」
「っていうと思ったぜ。こんのドヘタレ!お前その、あれ、き、…キス以上がしたく、なるんだろ!」
「ッ、はぁ???なんなのお前、分かってていってんの?殺すぞ?ホラ!言ってる間にツタヤについた。ジブリシリーズでも借りてこいよ。んで朝を迎えろバァカ」
チャリを駐輪場にとめて、ハナクソを荷台から降ろす。無言で降りたハナクソは、唇を尖らせて俺のリュックをずいっと突き出してきた。それを受け取って背負い直すと、ハナクソが頬をポリポリとかきながら、「馬鹿はお前だよ」と言った。むかつくからベシッと頭をはたくと、ゲシッと膝裏を蹴られた。絞め殺してぇ??…!
「…………それ以上、やんならさ、ちゃんと勉強しねーとわかんねぇだろ!男同士なんだぞ俺たち!いつか、そういう日が、その、くるかもしんねぇし、だから、………ゲイビ、借りようぜ」
「やっぱり馬鹿はお前だ!!!アホかーー!んな勇気あっかよボケ!そもそもまだ18にもなってねぇのにAV借りれるわけねぇだろ、って、おい、お前本気かよ!?」
俺の腕を掴んで、ずいずいと歩いてツタヤの中に入ろうとするハナクソ。さすが男、振り払えねぇわけじゃねぇけど力強いな。
「あ、当たり前だろ…!一人で見んのは、流石に嫌だからさ。お前今日泊まれ。強制、絶対。」
耳が赤い。ハナクソの赤い耳をみたらこっちまで恥ずかしくなってした、何言ってんだ?
一緒にゲイビ見ようって?頭強く打ったんじゃねぇの、バカ、じゃね…?!
「何すっか、わかんねーぞ」
そういうと、ハナクソはぴたりと脚を止めた。目の前はもうツタヤの入り口、あと一歩踏み出せば自動ドアが開く。俺の言葉に一瞬驚いたような顔をしてみせたハナクソは、眉をひそめてニッと笑った。
「上等。」
いらっしゃいませー、という店員さんの声。俺の腕を掴んでいた手が離れていく。
物足りないと思っていたのは、本当に、俺だけ…か?
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