アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
顔をみたらどうでも良くなる
-
父さんは出張で大阪に言ってるし、母さんは高校時代の旧友との飲み会、姉貴は居酒屋のバイト、そして兄貴は瑞分前から帰ってきてない。
光平さん、というのはあのハナクソの兄貴で、俺の尊敬する人なんだけど、その人とルームシェアをすると言ってフラフラ出て行ったのは去年の話だ。今、家にひとり。しーんとした部屋、時計の音だけが静かに聞こえてくる。暇。
ベッドに転がって今日のことを思い返す。古賀の気持ちはハッキリわかった。…ムカつくな、俺はこんなに独占欲の塊みたいな人間だったのか。なにより自分の感情にびっくりしている。あいつが、俺の手を離すことはない、…うん。ない、はずだ。こればっかりは人の気持ちだから、なんとも言い切れないが。何弱気になってんだよ俺、なんでこんな不安になんなきゃいけないんだよ。そりゃあ、俺よりきっと古賀のほうが優しい、趣味だって古賀の方が合うだろうし、古賀のほうが一緒にいて楽しいだろうけど。俺はあいつに意地悪ばっかして、この先きっとずっと怒らせてばっかりだろうけど。だからなんだよ、それでも俺の方がずっと、想っている自信がある。
別にすきとかじゃねーよ、好きじゃねえ、スキじゃねぇ。今更だろ、認めろよ、って?ちげーよバカ、もうそんなんじゃないんだよ、スキだの嫌いだので片付けれるような存在なら、もうとっくの昔に大切なオトモダチの古賀にあげてるってことだ。
付き合っても、俺のモノになった気がしない。いつでも掛けたはずの手錠をすり抜けて、どこかに行ってしまいそうでウザイ。あー、だめ、なんで。なんか鼻の奥がツンとする。アホか、……アホか。なんでこんな思いしなきゃなんない、なんであんなハナクソのために泣かなければなんない、絶対ごめんだ。こんなことなら初めから、ずっと前のままでよかったじゃねーか。
惚れた腫れたを繰り返して、それで得たもんはなんだ。不安と、独占欲と、ちょっとした優越感と、でかすぎる胸の痛み。
気づかなければ。いや、せめて認めなければよかったと、コトを悪い方へ悪い方へと捉えてしまう。俺の悪い癖だ、考えるのが面倒になってきたらこれだ。こうやって楽だった方へ逃げようとする。
まあいいや、先のことはその時に考えよう。俺があのハナクソを離さなきゃいいだけの話だ、ほら解決した。よし、久々にモモちゃんに癒してもらおう。こういう時は二次元にトリップした妄想をするにかぎる。そう思ってPSPの電源を入れた時、ピンポン、と部屋のインターホンが一回だけ部屋に鳴り響いた。誰だよ、ったく。今、結構誰にも会いたくないのに。モモちゃんにしか会いたくない気分なんだ、二次元に行かせてくれ、やっぱり三次元はクソゲーだ。クソゲー。
特にモニターも確認せず、玄関の扉を開けにいくと、ドアの隙間から灰色掛かった茶色い髪が見えた。きったねぇ色、それを俺はよく知ってる。
「何しに来たんだよ、ハナクソ」
「早く入れて。寒い死ぬ」
「サヨウナラ」
「おおお??まてまてまて、肉じゃが持ってきたから一緒に食べよ」
わざと扉を締めるフリをしたら、ガッと足を扉に滑り込ませてくる。俺は仕方なく家に入れてやるようなそぶりを見せて、玄関のチェーンを外した。ハナクソは何処か頭がおかしいのか、鍋づかみを手に嵌めたまま白い鍋を持ってる。…もっとタッパーに入れてくるとかなんかあっただろ。ほぼ同じ間取りの家、ハナクソが「お邪魔しまーす」と言いながら入ってくる。リビングにあるコタツの上の鍋敷きの上に鍋を置いて、鍋づかみからも手を抜いた。
「お前ん家のお母さんってさ、俺の家のお母さんとも仲いいじゃん?今日同窓会っていってたから、どうせ飯食ってねーだろ、持っていけってお母さんが。」
「は?あぁ、うん、礼言っといて」
「今食う?」
「うん、食う」
「なんかヤケに素直だな、気持ち悪っ」
寒いって言ってたくせに、コタツにも入らずキッチンに向かうハナクソ。俺が今食うって言ったから?だから用意してくれんの?
こいつどこまであざといんだ。なんでこんな真冬に薄いTシャツ一枚なんだよ。下はガッツリスエットのくせに。ヘッタクソな鼻歌を歌いながらジャーの中にあるご飯を、俺の茶碗によそってるハナクソの背後に立つ。ちっせ。ゴミじゃん、チリじゃん、カスじゃん。なんでこんなチビ一人に悩まなきゃいけないんだ。悩みたくないから打ち明けた感情。そういう関係になっても悩まなきゃいけないなんて知ってたら、俺は絶対告白なんかしなかった。…多分。
うなじ丸見え、特別白いわけでもない、男の肌。色的には俺の方が白いんじゃねーかな、ハナクソはよく日焼けするけど、俺は日焼けしねーし、 もう冬だし。そんなことを考えながらハナクソを上から見下ろしていると、見つけた。
赤くなった歯型を。鎖骨の上、肩にかけての薄い肉に、デカイ歯型が堂々と咲いていた。隠さなくていいのかよ、そんなの。どうみても男に噛まれた痕にしかみえねぇんだけど。
「背後に立つなよ、邪魔」
「お前歌ヘッタクソだな」
「うっせぇな。ほらどけよ、飯食うんだろ」
会ってしまったら、さっき考えていたイロイロは、ほんとにどうでも良くなっていく。なんでだ、おかしい、へんな魔法でも使ったのか?おかしい、もやもやは消えていく、その代わりに襲い来るものはむらむら。…ムラムラします、困りました。
そりゃ仕方ないだろ、俺がつけた歯型が見えるんだから。もう一度同じことがしたくなっても俺は悪くない。
「お前なんでそんな薄着で来たんだよ、寒ィだろ、外」
「エレベーターのったらスグお前の家につくからだよ。あ、俺もご飯貰うな」
「そこの茶碗使って。つーか、俺がもし家にいなかったらどうする気だったわけ?計画性ねぇな」
「んじゃ帰ればいいじゃん、頭使えねぇなお前」
「クソむかつくから肉じゃが置いて帰れハナクソ」
「メシ食ったら帰る。おら、ソコどけよ、肉じゃが冷めるだろーが、せっかく温めて持ってきてやったんだからちゃんと食わなきゃ半殺しにする」
「お前にそんな芸当ができるとは到底思えねえけど、腹減ってるから食う。」
しかしムラムラする。チラチラみえるその歯型、なんも気にしたそぶりを見せないハナクソ。コタツまで戻って向かい合って肉じゃがをつつく。…ハナクソの足が、膝に当たってる。なに、なにこれ、シネ、俺が今ムラムラしていると知っての行動か?カス野郎め、だからお前はすぐケツ狙われるんだよハナクソ!
無言。
無言でメシを食う。なんか前も、二人で部屋にいるときは無言だったな。無言でもべつにいいけど、沈黙が苦しいとか、そういうのじゃないし。でもなんとなくテレビでもつけとくか、と体制を整えるさい、脚を伸ばした。リモコンがすこし離れた場所にあったから、あぐらをかいたままじゃ届かねぇからだ。しかし、大失敗だった。
「ひっ、っ」
「あ?なんだこれ」
「…ッ、お、ま…!アホ…!」
何かが、足の裏に当たる。
布?布越しになにかむに、としたものが…なんだ?これ?俺の家のコタツにこんなもんあったっけ?こたつ布団?
もぞもぞとなんども、何かわからないそれを足の裏で確かめようと動かすと、同時にハナクソが下を向いて顔を伏せる。は?なんでお前が下むくわけ?
むに、むに、なにこれ。むに、むに、いやホントになに?
なんか、だんだん硬さ増してない?……下を向いたハナクソ、触れば触るほど硬くなる何か、…まさか。
「ッッ…!さ、流石にごめん!」
ハナクソに謝ったのはコレで二度目だ。一度目は委員長の仕事をすっぽかしそうになったとき、春先のことだ。そして二度目、今だ。
俺の足の裏でいじくり倒していたものは、布団でもなんでもない、ハナクソの…ハナクソジュニア。
慌てて脚をひいても、ハナクソは反応を見せない。うつむいたまま、そして、肩を震わせたままだ。ごめんって、流石にすげー悪いことした気分なんだけど!
「お前、やっぱ…そんなに俺のこと嫌いなの?なんのイジメですかこれは」
キッ、と睨みつけてくる顔は赤い、目も潤んでる。いつも通り、とくに怖くない、威嚇的には。ただ、今日の俺はすこしばかり、ムラムラしている。…そりゃそうだ、だって連日のストレスがいまここで解放されたとしか思えない。山下?古賀?どーでもいい、もううるさい、勝手にしろ、お前らがこいつをどんなに想おうが、こいつに歯型なんてつけて許されんの俺だけだ。
ぱちん、と箸を置いて、ごくごくと水を飲み干す。つけるはずだったテレビのリモコンはそのままに、俺はこたつから一旦出て、ハナクソの隣に座った。ハナクソはこっちを向いてはくれない、歯型がみえる、目が合わない、歯型が、みえる。
誘われるように、歯型に唇をよせた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 72