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口実と言い訳
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授業が終わるチャイムと同時に、ハナクソが教室に帰って来た。クラスメイトが「涼介サボりだろー!」とか「先生には保健室って言ってくれてたぞ、柳が」とか要らんことをベラベラと喋りかけている。まじ要らんこと言ってんじゃねぇよ、ハナクソのために庇ってやったみたいじゃねーか!
ハナクソは適当な返事を返して交わしつつ、こちらに向かってくる。机の上にとんっ、と置かれた黒い液体と赤いラベルのペットボトル。ハナクソの顔を覗き見ると、目が赤い。鼻もなんか赤い気がする。…泣いた?は?なんで?もしかして俺がさっき中指立てたから?置いてさっさと帰ったから?ちょっとまて、おい、サボりを庇ってやったぐらいじゃ足りなかったんじゃねーのってぐらいの罪悪感が襲いかかる、まさかそんなバカな、いつもやってんじゃんそれぐらい。思考回路が停止しそうな、うるさい教室の中。俺はハナクソが置いたコーラを手に取りながら動揺を隠す。
「別に、お前が買ってこいって言ったから買ってきたわけじゃねぇぞ」
「は?」
「だから、さっきは…なんか、…アレだっから、言い過ぎたかもって、悪かったなって、思って、買っていこうと思ってたっつーか…、とにかくお前が買ってこいって言ったから買ってきたわけじゃねぇから!」
ふい、と顔を逸らしながらも、自分の椅子に座って俺の机に肘をつくハナクソ。いや、…うん。まぁ、俺もちょっと躍起になってたから、いちいちこいつのヘラヘラした行動にイラついて、無駄に嫉妬とかしてダサいことして、こいつのことを変に縛り付けてたかもしんねーってちょっと反省、したけど。そうじゃなくて、そうじゃなくてさ、俺が今気になんのは、お前の目が赤いことなんだけど。
なんて、そんなことがすんなり口からでるわけも無く、受け取ったペットボトルの蓋を開ける。ぷしゅ、という音、そしてどばどばとその中身は泡だちはじめ、中の液体が溢れ出してきた。真顔。真顔でコーラが噴き出してくるのを眺めていると、それは勢いよく飛び出してきて顔にも少しかかった。両手どころかズボンもセーターもべしゃべしゃに濡れていく。大惨事もいいとこだ。俺の両手からしたたる甘い雫が、教室の床に落ちる。…………こいつ、このコーラ、振ったな。睨みつけてやろうと顔をあげると、ハナクソはこれまでに見たことないぐらいに驚いていた。なにびっくりした顔してんだよ、お前だ、お前。お前がコーラ振ったんだろ、だから中身が爆発的に溢れ出してきてこんな大惨事が起きてんだろ。そんな芝居いいから黙ってシルクの雑巾でも持ってこいよ。怒鳴りつけようと口を開くと同時に、ハナクソの発した言葉によってそれは遮られた。
「ッ!ごめん、まじ、…!うっわ、もう中身半分ぐらい噴き出ちゃったじゃん、染みつく前に洗おうぜ!」
「え!おい!ちょ、」
その態度ったらもう、まじで慌てた様子だ。ガタン!とやかましく立ち上がったハナクソは、かばんの中からクソダサいウサギがプリントされてる変なタオルを出してきて、それを俺の顔面に投げつけてきた。ぼと、顔面に直撃したそれは膝の上に落ちる。おい、なんのつもりだ。わなわなと怒りが湧き上がる。そんな俺のイラつきオーラを無視して、ハナクソは膝の上に落ちたタオルを握りしめ、俺の顔面をまるでタワシで壁を磨くように拭いてくる。…こいつこれ、ワザとだろ。痛い、鼻の皮とかめくれそう。痛い。
「ぶっ、おまっ、ちょ、」
「あーあー、やべーなこれ、無理だなこれ。帰っかワカメ、風呂しないと無理だわこれ。ちんこ濡れてね?濡れたろ?」
「濡れてな、んぐっ、はなく、ぶっ」
何か話そうとするとすぐに顔にタオルを押し付けられる、というか擦られる。なんのギャグだこれ。クラスメイトの笑い声が聞こえてくるんだけどお前これ、おい、なにがしてぇんだよ。ハナクソは自分のかばんと俺のかばんを引っつかんで、「悪い!ホームルームパスして帰るわ!先生には下痢っていっといてー」と、近くにいたクラスメイトに声をかけた。そしてハナクソの腕はおれの腕を引っ張る。強制的に起立させられた俺は、意味もわからずハナクソに引きずられるように教室を出た。ぴしゃ、教室のドアをしめるハナクソ。いつまで俺の腕掴んでるんだよ、離せやウンコ野郎、意味わかんねぇんだけどなんなのこの仕打ち。
いろいろ言いたいことがあるのに、ハナクソがスタスタと歩く。珍しく早足、俺の腕を掴んだままだ。あーくっそ、なんかベタベタしてきた気がする。そういえばコーラって糖質の塊だったよなぁ、とか、どうでもいいことを考えながら目の前のウンコキングに引きずられるまま下駄箱まで来てしまった。誰もいないそこはシーンとしている。今頃ホームルームが始まってるころかな、このハナクソのせいで早退扱いになるじゃねぇかクソが。
「お前さ、なんなんだよ。全部抜け出す作戦だろコレ」
「正解。お前にしちゃよく分かったな。もうちょっと黙ってお前ん家帰ろ。」
ハナクソは振り向かない。靴のつま先を三回鳴らして靴をはいたハナクソは、俺が靴を履き終わるのを確認して、また腕を掴んできた。ちょっと俺本当に理解できないんですけどこいつの行動が。
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