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連理之枝-れんりのえだ- <2>
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「「!!!!!」」
あわよくばもうすぐ唇同士のふれあいが達成されただろうそのタイミング。
まさにジャストタイミングのその一瞬に、一人の金髪に近い茶髪の青年がなんの知らせもなしにまるで爆音かのような派手な音とともに更衣室に飛び込んできた。
「敏樹センパイ敏樹センパイ敏樹センパ……あ」
「にぃぃぃぃしぃぃぃぃのぉぉぉぉぉぉぉ!」
口元を抑えて驚きのあまり顔を真っ青にしてしまった覚流を背後に隠してから、あからさまに『ヤバイやつに見つかった』と言わんばかりの不機嫌そうな顔をしている。
「あ、じゃねえ! てめえなあ! 入るときはノックは常識だろうが! 何度言わせる! 小学生のガキかてめえは!」
「あはは、すいませーん。これでも会社員でーすっ」
ちゃらちゃらと返事をする『西野』と呼ばれた若者に、額を手で押さえるようにしながらため息を一つ。
「何の用だ。……今すぐここから出てけ」
急に不機嫌な声を上げた榊に、「やだなぁ先輩ってばぁ」と怒る気をそがれるような能天気な声を上げられ、榊の雰囲気はどんどんと悪くなっていく。
「用事ならありますよぉ。この間の約束覚えてますか? 先輩っ」
「約束? お前と約束なんざした覚えはこれっぽっちもねえよ」
本当に榊には覚えがなかった。
約束と言えば今日のことを覚流としていたことぐらいしか覚えていない。
「えー?ひどいなぁ。今度ジムに来た時に練習相手したらごはん連れてってくれるっていったじゃないですかぁ! 今日俺頑張ったんですよー!? ずーっとずーっとずーーーーーっと待ってたんですよ俺。忘れちゃったんですかぁ?」
「……!?」
榊の後ろで話を聞いていた覚流は、条件反射で榊の服を掴んでしまう。
確かに今日の練習相手の中に彼もいた。
覚流まではいかないが、彼も榊を惜しいところまで追い詰めたひとりでもあった。
だが、練習後の約束までしていたなどそんなことを約束した覚えのない榊はもちろん、覚流に至っては知るわけも無い。
「前からずーっと練習相手しろって言ってきたのはお前だ。飯行くも何も、俺はいま減量中や。行くなら……」
覚流が服を掴んだことに気が付いていた榊は、西野を一刻も早くこの更衣室から追い出すために「一人で行け」と口から言葉が出かけた、その瞬間。
「いいじゃないですか、榊さん」
そう言い出したのは覚流だった。微かに声は震えていた。
「へ……、さと……る?」
ぎこちない顔で笑顔を作り、榊を見上げる。
「今日は朝から身体使ったんですから、お肉とかタンパク質で筋肉回復させたほうがいいですよ。気分転換に焼肉とかいいんじゃないんですか? 一食くらいおいしいもの好きなだけ食べて来ても問題ないですから行ってきてください」
あ、でもお酒と脂身は我慢して、肉と野菜のバランス良くは鉄則ですからね?
いつの間にか榊の背後から出て片付けを再開させながら、覚流が榊に笑う。
無論、離れてから執拗に榊に触れている彼をなるべく視界に入れないようにして……。
「俺ならシャワーお借りしてから電車で帰れますから」
にこやかに笑う覚流を見て、榊は何かを言いたそうにしている。しかし、覚流はそれを見なかったことにした。
「決まり! じゃあシャワー浴びて行きましょー!」
それに気づいているのかいないのか、わざと気付かないふりをしているのか。
能天気に勝手に決定事項にしてしまった西野が榊の腕に触れた。
「え、あ、おい……覚流」
シャワーを浴びるのに必要なものを出して、使わないものを持ってきていたドラムバッグにきれいに詰め込みながら榊に告げる。
「あとあんまり遅くならないようにだけはしてくださいね? 疲れとらないと明日に響きますから。お疲れ様でした」
手早く片付けを終わらせてから辛そうな笑顔を浮かべがら笑った。
何かを言いたそうな顔をした榊を見なかったことにして。
タオルなどを手にした覚流は、心に痛みを感じながらシャワー室へと足早に向かった。
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