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本当は今直ぐ手を離して貰いたいんだけど、チンピラ男が珍しく真剣な表情をしていたから、話があるのは、本当なんだろう。
片手でスマホをポケットから取り出し、妹に、知り合いと会ったから先に帰っててとメールを送った。
無言のまま歩いた先は、本が好きそうな奴が集まる喫茶店だった。
アンティークっぽくて、本がいっぱい置いてある雰囲気のいい所だな。
大学のレポート書くとき、こういう所によく来たな…
「奢るから座って」
「うん」
チラッと見回したら人はあんまりいなくて、
そりゃそうか、正月に喫茶店って普通空いてないもんな。
ここまで来たから、仕方なく椅子に座り、喫茶店だからコーヒーでも頼もうとしたら、チンピラ男が
「ちょっと待ってろ、逃げるなよ」
とだけ言い残して、カウンターの中に入って行った。
コーヒー、頼みたいのに、ウェイターさんが来ないし、カウンターにも人がいないから…これはなんて不便な喫茶店なんだ。
来年には潰れてると確信した。
今直ぐ帰りたいが、逃げるなよなんて言われちまったから、大人しくスマホ弄りながらチンピラを待ってた。
15分くらいしたらチンピラが、コーヒーと、ケーキを持って、戻ってきた。
「は、ここもしかしてあんたの?」
「そうだよ」
服装も、バーテンっぽい服に着替えてて、なんか、無駄に似合ってて腹が立った。
コーヒーとケーキを俺の前に並べてから本人も俺の前に座り込み、俺の事をじっと見つめてる。
すごい、いづらい。
「俺の顔になんかついてる?」
「あ?」
「あ?じゃねーよ!んなジロジロ見られたら落ち着かないだろう」
「いやお前を見てるというより感想が気になって…食べてみて、感想聴かせて」
さっきまでの腹たつ口調じゃなく、多分普段真剣モードになったらこんな感じなのかもしれないな。
一応1年は付き合ってたのに、この人のこんな顔は、初めて見た。
「焦らすなよ!はやく食って!!」
「あ、うん、いただきます…」
一見真っ白なケーキっぽいけど、フォークを刺したら、チョコと抹茶のレイヤーに小さいイチゴがはいっていた。
「中身に凝ってるんだね」
「凝ってるっていうか、まあ、そうだけど」
緊張してんのか、目の前の人の手が震えてて、俺の感想が、凄い大事な事なんだとわかった。
テイスティングなんてしたことないから、普段普通に食うみたいにデカくフォークに刺したケーキを口に運んだ。
味を楽しみながら、目の前の人に視線をやったら、緊張しすぎて汗までかいてる姿が見えた。
くっそ寒いのによく汗なんかでるな。
「どう?」
俺がケーキを飲み込んで、コーヒーを飲んでから感想を伺われた。
どうって言っても…
「俺の感想、小学生レベルだけど、普通に美味しいよ」
「本当か!?」
「本当だよ。なんだか俺が好きな味」
甘すぎない甘さと、
コーヒーに合う味。
そして、迷わなくてもいい、フレーバー。
ショートケーキを食べたいのにチョコケーキを見ちゃったらそっちを食べたくなったけど、その後に好きな抹茶ケーキを見たら、余計に迷っちゃうみたいな、そんな事が起きないように作られたみたいだ。
毎年誕生日とかクリスマスとか、ケーキ屋で1時間は悩んでる俺にぴったしなケーキだ。
『ケーキ選ぶのにそんなに悩むか?』
って智也に言われてたし……
「んで、これは新作?」
「そうなんだよ。付き合ってた彼女がインスピレーションだったんだけど、これ食わせたら「美味しくない」なんて言われて振られたよ」
「よかったじゃん」
「はぁ?」
「いや、だって…ねぇ?自分好みじゃないの作られて彼氏振るなんて、あんた愛されてないじゃん。そんな女の為に…悩まなくてもいいと思う」
「そ…だな」
俺が口にした言葉は、
自分にブーメランとして返ってきた。
『愛されてないじゃん』
そんなふうに今までは思わなかったけど、
多分、思いたくなかっただけなんだと…
そう思えた。
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