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家臣の憂い
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親代わりの老臣に「そろそろ身の回りの世話をする家来を迎え入れてはどうか」と長々聞かせられたソーマは、進言したであろうレフィルを一方的に自分の執務室まで連れてきた。扉を閉めるなり乱暴な手つきでかぶっていた黒の頭巾を脱ぐ。その反動で現れた金の髪は、この暑さだというのにさらさらとまるで水が流れるかのように涼しげに揺れた。頭巾を片手に、ソーマはレフィルと向かい合う。
「我が何をいいたいか、わかるな…?」
「ええっと…さぁ?」
気まずそうに頬を引っ掻きながら視線を逸らすレフィルに対し、ソーマの表情は一瞬にして険しくなる。
「じ、冗談です!わかってます、余計な事を言ったということは!でも……私は何も間違ってない」
「いや分かっておらぬ。お前も、老いぼれどもも…。時は既に動いている。我の手中でな」
ソーマは持っていた頭巾を泣きそうになっているレフィルの顔に押し付けると部屋の奥に歩き出した。レフィルは慌てて頭巾を受け取りながら後をついていく。
「貴様らが心配せずともよいのだ」
「殿下は!…殿下はもっと家臣を頼るべきです!今だってレオンさんをつれていないのに1人で歩き回って…。親衛隊だってあなたのためならば身を呈してお守りするというのに!」
「ああ…確かにそうだな!!」
――バン!
と、机に腕を振りおろし、ソーマがレフィルを怯ませる。怖気づいたその様子を確認し、ソーマは声にいつもの落ち着きを取り戻した。
「そういう意見があるのはもっともだ。だが我がお前に命じたのは「あの竜」の世話であろう。我に対して気を働かせろと言ったか」
「……っ申し訳ありません」
さすがに言いすぎたと思ったのか、俯いて頭巾をいつもの棚にそっと置くと、レフィルは一度咳払いをした。忘れていたわけではないが、ソーマは雇い主であり王子なのだ。その関係を損ねるようなことはレフィルももちろんしたくない。
「シュリ様、ですが…」
ソーマは「あぁ」と相槌を打つと執務室のいつもの椅子に腰を下ろす。革張りのソファに背を預け、長い脚が机にぶつからないように少し引いて組み直した。
「やはり高貴な身の上のようです。他人に風呂の世話をさせるのに慣れていらっしゃいましたし、お身体を拝見させていただいたのですが、火傷の痕以外の傷は見当たりませんでした」
「そうか…。傷が無いのは竜だからではなく、か?」
「あ…その可能性もありますね。表情や仕草もとても気品があって、お美しいので。きっと――……竜族に王族ってあるんですか?」
「無かったはずだ。…高貴という意味で考えるとすれば、族の長か首長のようなものであろうな」
「それって――…」
「ふむ…」
ソーマは顎を撫でながら思案顔で言うが、レフィルは真実に迫る緊迫した空気の中、言葉を途切れさせないように必死の様子だった。その緊張はもちろんソーマに届いているが、思考を整理するためにかまわず続けた。
「それに加えて無防備にファーラントに倒れていたとなると…。あれは竜のある種族の種族長の子息であり、何者かに襲われて命からがら逃げてきた…となるか。もしくは移動中に逃れたか。それにしてはやけに落ち着いているようだがな」
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