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その日、シュリは1人になったところで窓を解き放ち、風と穏やかな反射光を浴びながらレフィルの言葉を思い出していた。
『我が国の国花はプリステリアといいます。強い日差しを浴びても枯れない、僅かな水で育つ力強い生命力を持ちますが、花事態はご覧の通り、とても可憐で可愛らしい白いお花なのです』
強いけど、可愛い花。
窓の外にはプリステリアが咲き誇る花壇がある。背の低い花で、シュリの部屋を囲うように一面に広がっていた。それはあの白い記憶に出てきた花にとても似ていて、ずっと昔から知っていたような安らぎを与えてくれる。
(こんどレフィルにプリステリアの花ことばを教えてほしい…)
きっと素敵な花ことばに違いない。イーリスの国花というくらいなのだから。
窓が大きいので、窓辺は足を伸ばして座れるほどの余裕があった。裸足の足を投げ出し、片膝を抱えて遠い空を見上げる。澄み切ったイーリスの空は故郷のそれと違い、青が濃かった。故郷は霊峰で霧が濃く、途切れなければ晴れというものがまず珍しい。空の印象も白だったが、この地は、まるで青を零したかのように青空なのだ。健康的な青さに心も晴れ晴れとしてくる。はずなのに…ふと風が通り抜けた途端、やけに物悲しくなって目尻が下がる。
(……こんなにのんびりしていていいものか。里が襲われて、母様に逃がされて…必死の母様の想いの果てが、今の私、なのに…)
シュリがこう思い悩み始めたのは、塔に部屋替えをしてすぐのことだった。最初の部屋では、誰かに見つかるのではと息を潜めているので精一杯で、余計な事を考える余裕も無かった。しかし隔離されているこの塔は人の気配がまるで無い。1人きりになって、寝たきりでもなく自由に動き回れるようになった。この部屋を宛がわれた当初は、喜びに胸を躍らせ1階から3階を隅々まで歩き回り、全てに触れて、試してみたりした。リハビリにと階段を往復し、花壇に遊びに行ったりした。
けれど、全てやり終えて日常に変わった今、シュリの心は暗い膜で覆われていた。
きっと故郷があった場所にもう里は無い。あの日の夜、全てが焼けて、全てが奪われてしまっただろう。脳裏に貼りついた断片はどれをとっても残虐で悲惨で凄惨で。2度と戻れないあの日のことを、この先何度後悔することか。
自分1人だけ生き残っていいはずがない。と、シュリの考えは最終そこに行き着く。大切に扱われ、こんなに良い思いをして、いったい自分が生きている意味は何なのかと。
(いっそのこと、奴隷として扱われれば…。この後ろめたさも無くなるかもしれない)
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