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荒波予報
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野崎くんはバツの悪そうな顔をしながら話を続ける。
「見たとき、何やってんだよって言ったんだ。でもあいつ……"東雲くんの側にいるこいつが邪魔なんだ"って、何言っても聞く耳持たなくて。けど、それはやっちゃ駄目だろって。その日は俺が片付けたんだ」
その日がいつなのかは分からないが、確かに一日だけ綺麗な日があった。
珍しい、ラッキーと思っただけで深く考えなかったが……あれは野崎くんがやってくれたことなのか……
「ごめん、三浦。今まで言えなくて……止められなくて……ごめん、謝って済むことじゃないけどっ」
「の、野崎くんは悪くないじゃないか!い、いや幼馴染みさんも悪くないって言うか……その、俺は慣れているから」
「慣れてる……?」
「あ、ほら東雲はモテるだろう?だから嫌がらせみたいのは昔からあって、」
野崎くんは俺の腕を引くと、ぎゅっと抱きしめた。驚いてオレンジジュースをぽとり、と落としてしまったが仕方ないだろう。俺は野崎くんに抱きしめられているのだ。
「の、野崎……くん?」
「辛くないのかよ、そんなのされて……俺が言えたことじゃないけどさ、でもそれで、それで三浦は──」
背中に回されていた手がよりいっそう俺を強く抱きしめる。
「"幸せなの?"」
やけに心臓がどくり、と跳ねた。血が逆流するような変な不安感。
ぶわりと吹きあがる汗。その感覚はまるで蓋をしていた嫌な思いを蒸し返すようだ。
別に幸せじゃないと言っている訳じゃない。幸せだ。今は、特に。
だが、少なからず幸せじゃなかった時期もあった。
たくさん悩んだ。たくさん泣いた。たくさんたくさん嫌な思いをした。それは忘れられないし、忘れない。
慣れた、なんて言っていても向けられる敵意や嫌悪に慣れることなんて出来ない。自分がすっと消えてしまったら、と考えたことだってある。
けれど俺が悩む度に泣く度に傷ついた度に、東雲は目尻を下げてまるで自分が傷つけられたように、俺の頬に手を添えて震えた声で言うんだ。
『……ごめんね、椿……』
何度も俺を守ってくれるのに、そう言うんだ東雲は。
だから、俺は
「幸せだよ」
堂々とそう言える。
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