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piano①
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彼の指が好きだった。
白と黒の鍵盤を軽く優しく、まるで羽が舞うように叩くその指が好きだった。
その指が紡ぎ出す音が儚くて、美しくてしょうがなかった。
背筋を真っ直ぐに伸ばして、ピアノを奏でる君は近ずくのも躊躇うほどに綺麗で、僕は気付いたら泣いていた。
どうしてそんなに綺麗な音が出せるんだ
君の中は、綺麗じゃないのに
俺の唯一はお前だけ、って言ったくせに。
僕以外の人にもそう言ってることはとうに知ってる。美しい音を紡ぐその指で他の人の体に触れて、熱を生むことだって。
気まぐれで僕に触れて、愛を囁く君は残酷だ。
本気じゃないなら、遊びなら僕をもう解放してくれ。君の言葉に一喜一憂して、期待して、触れられるたびに熱を持つのには、もう散々なんだ。
ふと振り返った君が、なに泣いてるのなんてまた綺麗に微笑むから尚更酷く涙が落ちる。
お前なんか、お前なんか、
好きになんてならなければ良かった!
僕の涙をそっと拭うその指が憎い。子どもを慰めるみたいに髪の毛をすくその手も、見かけ以上にしっかりとした胸板も、底が見えない吸い込まれそうな瞳も、僕を焦がすこの体温も、僕のものにならないのなら…もう捨ててやるんだ。
もう一緒に居たくない
未だ止まらない嗚咽の中、掠れた声でようやく出した言葉。僕を抱くその胸が、1度ドクンと脈打った気がした。
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