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1.彼から始まる王道生活
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豪華さが隠しきれていない無駄に大きな門の前で、ただ一人立っているのは学生服を着た男。その男が着ている学生服は一目見ただけでもわかるような、上質な服であった。配色も目立ちすぎず、かといって落ち着きすぎず学生服としてはお洒落なその制服は、目の前に聳え立つ学園―邑楽学園では生徒の誰もが着用している学生服である。
そんな学生服を身に纏っている男は、黒髪を靡かせながら無表情にただ立っていた。しかし、学生服を身に纏うその姿はお世辞にも似合っているとは言えない。服に着せられている、そんな言葉がぴったり結び付く。
男は目にかかる前髪も払いもせず、鬱陶しいくらい暴れる髪の隙間からじっと目の前の建物―邑楽学園を見据えていた。
学生服を纏いながらも、怪しさ満点で学園を見ている男。それが俺―…
神無月 真琴である。
ある理由で今日から邑楽学園に転入することになった。だが、この学園の生徒になったのにも関わらず転入早々学園の外で不審者の如く立っているのは不可抗力とも言えるだろう。
門の近くに設置されたインターホンで話を聞いた限りでは、すぐに迎えを寄越すと門衛らしき男が言っていたのだ。しかし、いくら待っても誰も来ない。門の近くにある大きな時計を眺めて、何度か時間を確認するものの、やはり誰も来ない。
なぜだ?と、単純な疑問の言葉が頭に浮かんだ。時間は合っているハズなんだけど…俺が時間を間違ったのかと、そう思い再度もらった資料と時計を合わせて見てもやはり間違いはない。門衛の男だってすぐに迎えを行かせると言っていたではないか。若干の焦りを感じながらもどうすることも出来ないので暇を持て余す。
この暇な時間が勿体ないと思いながらも、迎えに来てくれる人は副会長だといいな、なんて考えながら待っていた。いや、違う。そうであったらいいな、なんて生温い願望なのではなくそうでないと―副会長じゃないと困るのだ。副会長が来ることを前提としたこれからの予定が狂うから。まあ、副会長ではなかった場合のプランも考えてはいるのだけど、勝率は少ないと言えるだろう。
大丈夫、大丈夫。上手くいくから。だから悲観的になるな。焦るな、落ち着いて行動すればきっと大丈夫だと、そう自分に言い聞かせた。ただ俺は進めば良い。シナリオ通りに、彼の描く物語を。そうすれば、きっと、きっと…
*
それにしても本当に誰も来ない。通りもしない。まあ、人が通らないのは当たり前だけどな。今日は平日だし、唯一とも言える外部への外出口は寮から学園を目指す生徒が通るはずもない。さらに、学園が建てられているこの場所は山に囲まれ自然が溢れている。生き物たちの聲が、静かなこの空間ではやけに大きく聴こえ心地いい。ただ、人の声など聴こえぬ優しい静寂がその場を支配する。風が頬を撫でるように通りすぎて行った。
目を閉じて最善の方法を考える。やっぱり飛び越えるしかないのかな?そういう運命なのかな。危険だし副会長(?)の姿が見えるまでは、やらないつもりだったんだけど…それでも俺の意見での判断はこれからの生活においてよくないことだろう。それに、やりたくないという感情だけでやらないのは許されない。もし、やらなかったことでこれからのことが失敗して狂ってしまったら?
そんなことで後悔したくないから。だからやるんだ…やらなければいけない。
覚悟を決めて、一か八か…
助走をつけて高く飛ぶ。門に足をかけて、落ちないように用心しながら攀じ登る。そして、バランスよく門の上に立ち周りを見渡した。眼下に広がる地面と、その距離に一瞬だけすくんだが、ちらりと視界に入った動く黒を目に写した瞬間ぐっ、と力を入れ直した。
そこで見えたのが、此方に向かって走ってくる眼鏡の男が姿であった。あの男が迎えの副会長(?)だろうか?そんなことを考えているうちに、あっという間に副会長(?)らしき男がタイミングよく門の下に走って来た…
相当走ってきたようだ。疲れた様子で、息を整えながらも俺を探しているのか、キョロキョロと視線を動かしていた。
この副会長(?)の様子だと向こうが遅刻か。やっぱり俺は時間を違ってなかったのか、と少し安心しながらも遅刻とか副会長(?)としてどうなんだよ、なんて否定的に考えた。まあ、あれだよね…会長に突然言われて急いできたパターンだよね、王道だね!とか考える。
そして、俺は足を踏み外した“ふり”をして副会長(?)にこう言うんだ。
「お、お前!そこをどけぇええええ!!!!」
少し驚いたような表情の副会長(?)は俺が落ちてくると思ったのか―
「危ない!」
焦ったようにそう叫んだ副会長(?)は、咄嗟に上から落ちてきた俺に腕を伸ばした。俺もぎゅっ、と目をつむり衝撃に備える。ふわり、と俺を腕の中におさめたのは当然だが副会長(?)であった。
間に合った、とほっとしたような小さな声が聞こえた。
*
暫くの沈黙のあと、俺を抱えている副会長(?)と目が合う。目といっても俺は今、眼鏡をかけて前髪も目元まで伸ばしている所謂―毬藻なんだが。
“ありがとう”
そう心のなかで唱えて、理不尽極まりない言葉を副会長(?)に投げ付けた。
「お前あんなところにいたら危ないだろ!吃驚したんだからな!!それと遅いんだよっ!!!いつまで俺を待たせんだっ…ですか!!」
最後はわざとたどたどしくきつめに言う。ちょっとあからさますぎたか?それに、待たせるって言っても30分程度なんだけど。俺はこんなことで喚くほど短気じゃないぞ、と心のなかで言い訳しとく。ただ、不安になっただけだ。
「…す、すみません」
一瞬呆けたような顔をした後、副会長(?)はすぐさま俺に謝った。そして、ゆっくりと俺を地面におろしてくれた。
「謝ったから許すぞ!俺は優しいからなっ!!」
自分で言っといて、変な話だが一言だけ言わせてくれ。何様なんだよ俺。自分の言葉に、演技に嫌悪感を持ち始めたが、やめることはしない。
*
「…ところで貴方が転入生の神無月真琴さんですか?」
「おうっ、そうだぞ!」
「私は本日、神無月さんの案内を任されました生徒会副会長の城ヶ崎柚木と申します」
軽い自己紹介のあと「今から理事長室に案内しますね」と、少し引きつったような笑みで言われた。そりゃあ自分に落ち度はあるとしても初対面であんなに言われたら誰だって笑顔も引きつるわな。
でも本当に副会長でよかった…
「おうっ、柚木だな!俺のことは真琴って呼べよ!!それと…その笑顔なんか気持ち悪いっ!だから俺の前ではやめろよな!!」
ニコッ、と無邪気な笑顔を意識して城ヶ崎に言葉を放つ。よし、言い切った!ここがターニングポイント…そう。分岐点。俺の、始まり。ここから、始まる。
後戻りはもう許されない。
*
俺の言葉に驚いたような顔の城ヶ崎からじっと返答を待つが、呆けたまま何も言わないので成功か失敗かわからない。本当に、これで良かったのか?ぐるぐる、渦巻く思考に首をふる。目にかかる前髪の奥で、副会長を眺め続けた。
怒って―…はなさそうだな、うん。
「そんなこと言われたの貴方が初めてです!――気に入りました!」
城ヶ崎は先程とは違った自然で綺麗な笑みを浮かべて…
「あふっ、んんん…ふぁあ、やぁ……っ」
俺にキスをした。しかもディープな方。軽いキスから始まり、どんどん深くなっていくキスに鳥肌がたつ。震える体を必死に抑え込み、やまないキスを止めさせるために、考える。大丈夫。これは予定通りだ。気持ち悪さも、体を這うような嫌悪感も、全ての呑み込んで快感に溺れるような、そんな声と、動きを作る。そして、タイミングを見計らいながらやっと、拒絶の行動を起こした。
「んぅ、ぁ……やめっ…や、やめろって言ってるだろ!!」
ドカッと鈍い音が響く。それは俺が城ヶ崎を殴った音。でも、音のわりにはそんなに力はないと思う。なるべく顔を赤くさせて恥ずかしがっているように“見える”ように表情を作る。
「すみません。真琴が可愛かったものでつい…」
ニコッと悪気のない顔で城ヶ崎は言う。いや、「つい」でキスされたらたまったもんじゃねえよ?調べた限りここにいる生徒だったらある程度なら喜びそうだけどな…俺は嬉しくもなんともない。まあ、言わないけど。でも、そうだな。本当は誰ともキスなんてしたくなかった。でも、これは俺にとって必要不可欠な行為だから。だから、最初で最後の副会長とのキス。唇を荒く拭いながら、そう願う。
*
ちなみにさっきはドカッと力の限り殴ったのだが、城ヶ崎には効いていないようだ。俺は力が弱いらしいし。澄ました顔で俺を楽しそうに見ている。そこらの王道と違って俺は、普通の人より体が柔らかい位なのだ。族の幹部をやっているような奴らには到底敵わない。きっと城ヶ崎らからすれば蚊にさされたようなものだろう。あれ、自分で言って悲しくなってきた。
そう、ここの学園の生徒会は全員族に入っているらしい。それも生徒会長が総長で、それ以外の生徒会メンバーが幹部の地位にいるらしい。大丈夫かこの学園と思わなくもないが、俺が知ったことではない。生徒会ってみんな将来有望(?)な御曹司とか、顔とかで構成されているんだろう?それでいいのか…本当におかしいと思うよ、うん。ちなみに俺は体力もあまりない。
「…あ、謝ったから許すぞ////」
城ヶ崎の言葉に照れてるような演技をしながら、俺はそう言った。ごしごしと荒く拭った唇が熱をもつ。城ヶ崎の冷たい指が妖艶に唇を撫でた。やめて。流し目やめて。
*
そんな茶番をしていたら木の上でハァハァ言っている変態を見つけた。
『ktkr!!!!!王道きたぁぁあhaha…』なんて言ってるぽいので腐男子なんだろうと思い、特に気にせず反応せず城ヶ崎について行く。案内を含めて、向かう先は理事長室だ。
なぜ俺が木の上にいる男―変態の言葉が分かったかって?単純に口の動きで分かっただけだ。俺は目がいいんだよ。あと耳も結構いいよ。
城ヶ崎に続いて、歩き続けると目の前に広がるのは広い校舎。歩きながらだと覚えにくいので、時々立ち止まって案内や説明をしてもらってはいる。だが、あまりにも広い校舎のためそれらは簡潔だ。城ヶ崎は必要ないところはスルーしてるし、細かなところは後々覚えていけばいいと助言をしてくれた。確かに、そうだと思いながらそれでも真剣に耳を傾ける。その内容は予想以上にわかりやすくて安心した。
それでも、広くて情報量も多いために、覚えきれるか転入早々今後が不安になってきた。心配ではあるが、出だしは順調。そう、思ったよりすんなりと城ヶ崎に興味を抱かせることができたし、好意も持たれてる。運命だと、そう熱をもった視線で囁く城ヶ崎は嘘をついているようには見えない。それは、きっと。望む物語の第一歩。
副会長攻略完了残りは―――…
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