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5.夢―それは記憶*
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『――…お前は今日から神埼 真琴だ。よろしくな』
『かんざき…?』
『あぁ、急で戸惑うだろうがゆっくりなれていけばいい』
『でも、ぼく…』
『大丈夫。俺が――の分まで幸せにする』
『しあ、わせ?』
『そうだ。今日からお前は俺の家族だ』
『か、ぞく……いいの?』
『あぁ』
『ほんとうにぼくでいいの?』
『そうだ。お前が―真琴がいい』
『そっか…よろしくおねがいします。―――さん』
――…これは僕がまだ何も知らなかった頃の記憶。
*
瞼を開けるとそこに見えるのは、いつもの部屋。灰色で薄暗く光のない闇のなか。
体の自由はきかなくて。
――…あぁ、ここは夢か。そう理解する。
いや、それとも今までが夢だったのではないかとも思ってしまうくらいには、意識がぼんやりと遠い。これが、夢なのか。現実なのか。闇を彷徨う今の俺にはわからない。
暗い。暗い。部屋の中。冷たい、冷えた床の上。唯一あるのは、質素なベット。ここには、生活を彩る物が何一つない。ただ、広いだけ。寂しい。淋しい。いつも、ひとりだった。ここには、自由がない。ゆらゆら、揺れる光。そこは、檻のような場所。そこで、俺はいつものようにあの人に謝る。それは赦しを請うというよりも、何かを求めているような、そんな忘れたくなるようなもの…
『ごめんなさい』
何度も何度も悲鳴のように謝り続ける。俺はいつもそうだ。逃げる足があっても逃げ出さない。決して飛ぶことのできない籠の中の鳥。飛べないのではなく、飛ばないだけ。飛びたいと思っても、きっと羽は動かない。震えて、固まって、願うだけ。たすけて、たすけて。その言葉はいつだって、誰にも届かない。ただ、救われたいと、救ってあげてと。増えて、減って。唱えて、願って、叶わない。
それを、瞳に写し、自分はやはり逃げられないのだと痛感する。思い出すのは、いつだって優しい記憶と、混ざった恐怖。ここは束の間の夢。記憶。しかし、忘れてはならぬ現実。ゆるり、ふわり、空から落ちていく。
*
『………』
無言で俺に暴力を与えるあの人はいつも無表情で、どこか虚ろだった。感情の見えないその瞳には確かに俺が写っているが、一向に光は見えない。あの人の目に、優しさや光が昔はあった、と思う。だって俺にはそれが本物であったのか、それとも偽物だったのかわからない。どちらにしても、今のあの人の目に光はない。感情の籠らない目で俺を刺すように見る。言葉と暴力の痛みは鋭く心と体に突き刺さる。
『ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさいっ!』
何度も何度も、謝り続ける。もう何度謝ったのかも忘れた。なぜ謝っているのかさえも、もう分からない。けれど謝り続ける。だってそれをしないと今よりもっと傷付くとわかっているから。謝る以外の術を知らないから…
だから俺は自分を守るために謝り続ける。
大好きなあの人の笑顔をもう一度見たかった。今はもうそこから逃げ出したい。ただその一心で、けれどもそれ以上にあの子の心を守りたかった。
*
『今度はもっとうまくやります。許してください』
ただひたすらに許しを請う。けれど、あの人は甘くなくて、勢いよく俺を突き飛ばすとボロボロになったズボンを強引に脱がした。そして露になった俺の尻の穴に容赦なく、躊躇いすら見せずに、あの人は自身のモノを突き入れる。
何度もやっているせいか痛みには慣れてしまってあまり感じないのだけれど…それは何度やっても耐え難いもので、苦しくなる。
『っ、ひぁ』
ただただ強い快感が身体にはしる。それを快感と感じてしまう自分に嫌悪しながらも俺に止める術はなく、ぎゅっと目を瞑って行為が終わるのをただひたすら待つ。
『ひぅ…もっ、やだぁ。それだけは…っ』
殴られるより、痛い…胸が苦しい。辛くて嫌なのに、俺はこの痛みからは逃げられない。
絶対に逃れることはできない。
*
俺を繋ぐ鎖は重く、頑丈で…それは触れることすら許されない。
俺は一生この人のモノなのだろう。人形のように。ただ命令をこなす機械のように。表情を殺して。自分を殺して。心をも殺して。
――…生きていく。
死にたくて、けれど死ぬのが怖い。生きるのも苦しくて、でも生きてくれと願う人がいる。矛盾ばかりの臆病者の願いはたった一つ。
こんな俺を家族だと言ってくれる彼らと自由になりたい――…
ただ、それだけのこと。
*
お金なんてなくてもいい。どんなに見窄らしくても、滑稽でもいい。ただただこの鎖を引き離して、自由になりたい。自分の足で自由に立ってみたかった。そして、青く澄んだ空を一緒に見たいと笑いあった記憶が確かにあった。
『あぅ、もっ…もう……あっ、やだぁ…でちゃ、う……ひっぐ…』
『お前は言われたことだけをやればいい』
あの人の声は酷く無機質で、機械的で…けれど俺の心に重くのし掛かる。
『ひっ……ぁあぁぁぁぁぁ!!』
痛くて苦しい。終ることのない快感と恐怖に俺はいつも怯えてる。
―――だれか、誰か助けて。
そう子供のように泣き叫ぶ俺の声は誰にも届かない。
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