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6.これが夢なら覚めてほしい
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「………っ!―――――…!?」
…ここ、どこだ?
目が覚めるとそこは知らない部屋。先程見たものが夢だったことに安堵しながらも、今のこの状況に戸惑いと不安が募る。
「ぁ…」
どうしよう。物凄くやばい状況だ。これは良くないこと。いやだ、バレたら連れ戻されてしまう。どこで聞いているかわからないのに…考えれば考えるほど悪い方向にばかり想像してしまって頭が痛む。あそこに戻るのだけはダメだ。今、戻ってしまったら絶対にもうここには来れない気がする。それに、今さら彼に合わせる顔がない。だからこんなところで戻るわけにはいかない。俺は成功させるんだ。
せっかく巡ってきたチャンス。一度きりのチャンス。無駄にはできない。
*
ガチャリ、ドアの開く音がした。此方を見ると同室者であろう男―山河が入ってきた。寝顔は確かに見たのだが、部屋が暗かったこともあり山河の顔をほとんど覚えていない。さらに、混乱していたので残っている記憶が薄かった。だがひとつわかるのは、その目は先程とは違い穏やかだということだけだ。
「…起きたのか。ほらこれ飲め」
そう言って山河から渡されたのはペットボトルの水。透明な水面が揺れる。
「…ありが、と」
礼を口にして、飲む。ごくり、と喉が鳴る。冷えた水が喉を通って、渇いた喉を潤した。
「転入生らしいな。悪かった」
謝られた。意外だった。まさか謝られるとは思っていなかった。何に対して謝っているのか考える。
「ほら、フォーク投げたことだよ」
――あぁ、それか。
不良(?)にしては律儀な男だな。少し変わってる、だけど面白い人。でも、この人と話せるのはこれでもう最後かもしれない。転入した初日であの醜態…バレていないのならば大丈夫なのだろうけど。でも、あの人はそれを見過ごす程甘くはないだろう。
それは俺が一番、身をもって知っている。
今もどこかでこの会話を聞いているのではないだろうか…なんて、そんなことを考えるほど俺はあの人に支配されている。
*
一人、考えに耽っていると前からじっと視線を感じた。
「……」
そんな俺を見ていた山河が溜め息をはいた。ビクッと肩が小さく跳ねる。
「そ…の……」
視線は感じていたけど、どう会話していいかわからなかった。お互い無言のまま言葉が続かない。
「怒っているわけじゃない」
俺を安心させるようにそう言った山河は、噂ほど悪い人ではないのかもしれない。そう思うほど、その声には優しさが感じられた。
「自己紹介が遅れたな。俺は山河 泰杜だ」
「…神無月 真琴です。あの…これありがとうございます」
少し間を置いて言う。これ、とは先程までに飲んでいた水のこと。
「………」
「………」
会話が続かない。重々しいこの空気。少し、気不味い。
*
「すみません…迷惑かけたみたいですね」
「敬語はいらない。同い年」
やっぱり今さら敬語なんて変か…やってしまったな。演技も出来ていない。ああ、本当に最悪だ。
「………」
いつもなら敬語を使っているけど、山河の前では意味がないのだろう。それに、俺は見られてしまったから。情けなく震えて叫ぶところを、挙げ句には意識を失って介抱される始末。シンプルに言葉を纏めるとしたらそれは弱味を握られている、そう言っても過言ではない。
そう思っているのは俺だけかもしれないが、油断しすぎると足元をすくわれかねないので、結果的に素直に従うしか俺に選択肢はないのだろう。
それでも俺は自分を突き通さなくてはいけない。
*
「山河、本当にありがとう」
「いきなり倒れてごめん」
「今日のことは忘れてほしい」
「突然、こんなことを頼むなんて不躾で悪いが…同室者として最低限にしか関わらないでほしいんだ」
一方的に放つ言葉は俺が言っていることなのに、言葉を発する度に心がチクチクと痛む。これ以上深く関わらないためには突き放せばいいだけのこと。それに、俺は関わりがほしいわけじゃない。そんなもの必要ない。あっても足枷にしかならないのだから。
今の俺が一番に優先すべきなのはあの人の言葉だ。だから全てをなかったことにすることが最善なのだ。今後を考えたらそれが一番いい。
*
「…そうか。それが望みなら答えよう。
―――…悪かったな」
山河は静かにそう言った。なぜだか少し怖くなって下を向く。声だけでは山河の感情は読み取れない。顔も全然見えないので表情もわからない。
ごめんなさい。
山河は俺なんかの言葉に何も思わないと思うけど、助けてもらったのに酷い言葉を投げつけた。
「ここお前の部屋だから」
去り際に山河はそう言って部屋から出ていった。
「………あっ…」
どうせ俺は自由になれない。大丈夫。けれど、これが終わったら俺は“卒業”までは自由だ。そして、俺が問題を起こさなければ彼はこれから先ずっと自由になるだろう。
ごめんなさい。
そう小さく呟きながら、先程部屋を出ていった山河を思い言葉を重ねた。
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