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8.どうでもいい日常
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朝起きると部屋には誰もいなかった。あのまま寝てしまったのか。靴もないし何処かに出掛けたのだろう。山河がいないことを確認して少しの間だだけでも鬘を脱ぐ。汗で蒸れて、張り付いて鬱陶しい。
部屋に鏡があるのは幸いだった。部屋から出なくても確認できる。昨日、何かの拍子で鬘が外れて山河に見られていないことを願おう。そして、これからも見られないように注意しないとな。しっかり、がっちりピンで固定してるからそこらへんのことは大丈夫だと思う。ただね、俺の今の髪型(?)、鬘型(?)って明らかに不自然なんだよね。まあ、不自然に見えるようにしているからなんだけど…自然だったら王道じゃないし。王道的にはいつかバラすつもりなんだけど、今はまだ、ね…それまで我慢か。蒸れないといいな。
*
山河は朝方出ていったのかな。なんて早起きな不良(?)なんだ。いや、俺が気づかなかっただけで昨日の夜に出て行ったのかも知れないな。そして、何故かご飯が置いてあった。
メモがぶっきらぼうで…なんていうのかな、ツンデレなのかな。
一言《食え》だけって。
優しい不良さん。
あんなに突き放したのに世話を焼いてくれる、というか俺は山河のこと不良って言ってるけど案外不良じゃないのかもしれないな。まあ、どうでもいいか…
机に広がる料理を食べるのを少し躊躇ったが、せっかく作ってくれたので食べることにした。
美味しい。
ご飯は冷たかったけれど、とても心が温かくなった。ゆっくりと、噛み締めて食べる。
あの子にも食べさせてあげたいなあ、なんて思う俺はまだまだ駄目だ。なぜだか少し泣きそうになった。
*
朝食を食べ終わり、片付けをして鏡の前で姿を整えた。授業の用意したり、そうこうしている内にピンポーンと軽い音色のチャイム音が聞こえた。
「…誰だ?」
確認すると佐伯と大谷だった。再度部屋から鬘をとってきて、外れないようにしっかりとピンで止めて鬘を被る。
そして、気持ちを切り替えるようにゆっくりと目を瞑った。ぐっと目尻に力をいれて、ドアを元気よく開けた。
「真琴!っ、大丈夫だった?」
そう言って勢いよく飛び込んできた佐伯を、うわ、と驚いたような小さな声を出して支えた。「どうした?」と、驚いた声で聞くと、心配気に俺を見た。
「山河のことだよ。何もなかった?」
あぁ、山河ね。何かあったと言えばあったけれど、あれは俺が部屋に新しく入ってきたって知らなかっただけだろう…そう思うとあれは当然の反応かもしれない。
*
寝ている時に、一番人が無防備になっている時に近づいた俺も悪いし、話すと面倒くさいことになりそうなので言わないけど。言う必要もないしね。
「おうっ!何もなかったぞ!!朝からどうしたんだ???」
「真琴が心配で…」
だろうと思った。心配してくれるのはいいことだし、普通に嬉しい。
「そうなのか?ありがとな!!」
「……////」
にこり、と笑うと顔を赤くする佐伯。まあ、ニコリというかニカッ、ぽいけど。大谷は無言で俺を見て突っ立っている。少し顔が赤く見えるのは気のせいか?…気のせいだと思いたい。そんなプラグいらない。
*
王道では王道転校生―俺に向ける気持ちを恋心だと勘違いしていた一匹狼―大谷が実はそれは単なる友情だったってことに気づいて、それで…
この学園にいるのかはわからないけど、いるのならば…いつか総受けになるだろう‘脇役主人公’である男が大谷に教えるんだ。それか、自分で気づくのが先か。いるのかなあ…それとも、それとは全く違ったストーリーとなるか。いろいろあるしね。世の中には色々なジャンルがある。腐男子じゃない俺には詳しいことはよくわからない。まあ、どういう結末になったとしても俺はそれまでには全てを終わらせたなきゃいけないんだけど。
まだ俺に有余があるのならば、必ずやり遂げなければいけない。それが俺たちの自由への道だから――…
たとえそれで誰かの心を壊したとしても。俺は俺の願いのために他人を見捨てるよ。最低だと言われても、誰かに罵られたって構わない。だって誰かを犠牲にしないと俺はこんな世界で生きてられないから、こんな方法しか思い付かないから…
後悔なんてしないよ。
―――…たぶん、ね。
*
「っ、まこ…と……真琴!」
「―――っえ、あぁ…どうしたんだ?」
吃驚した。ぜんぜん話を聞いていなかった。
「ぼっーとしてたから、大丈夫?やっぱり昨日何かあったんじゃ…」
そんなにぼんやりしていたのだろうか。
「ごめんな!心配しなくても大丈夫だぞ!仲良くなれたからなっ!!」
「…そうなんだ。それなら良かった。あの山河と仲良くできるなんて、真琴は凄いね!」
「ありがとな!平良はそんなところでどうしたんだ!?一緒に話そうぜ!」
なぜか驚いているようだった佐伯から話をそらすようにして、大谷に話を振った。仲良くなったっていうのはほぼ嘘だし。突き放してしまったから。なぜかわからないが、ご飯は作ってくれたけど。
あの事を思い出すから、この話はあまりしたくない。それに大谷のこと地味に気になってたんだ。佐伯の後ろにそっと立ってるし…ちょっと怖い。
*
「あぁ、そうだな。…おはよう」
大谷が言ったから思い出したけど、挨拶忘れてたな。いつもの生活では挨拶なんてあってなかったようなものだったし。
「おはよう!」
「僕にもっ、真琴おはよう!!」
「おうっ…おはよう!!」
佐伯の勢いに、若干引いた。後ろにいた大谷も引きぎみだったぞ。まあ、本人満足そうだしいいのかな。
*
それから教室まで色々な話をした。内容?…そこまで真面目に聞いてなかったのでほとんど覚えてない。大丈夫。今後の生活に支障ないような話だったと思うよ。
それより俺ら―いや、横の二人が教室に入ったとたんに大きな歓声が響いた。佐伯や大谷の歓声に隠れた俺へのブーイングや陰口とかも聞こえてくるけど、どうやら佐伯と大谷にも聞こえてたみたい。少し怖いな…オーラがこうゴゴゴゴゴみたいな感じで。触らぬ神に祟りなしってことかな。こんなこといちいち気にしていたら先に進めないよね。気にしなーい、気にしなぁい。
*
ホームルームではホスト担任に愛を囁かれて鳥肌が立ちそうになった。ぞわぞわした。いや、あれは鳥肌立ってたかもしれない。
それから食堂に行ったら見事に生徒会が来た。ぞろぞろといつものメンバーを連れて、誰かを探しているようにキョロキョロしている。すると俺と目があった城ヶ崎が、そして生徒会役員全員が近寄ってきた。城ヶ崎が始めに俺を見つけた。あんな大勢の中から見つけるのはすげぇと思うよ。見つかりやすいところにいるのは、そのためだけど。それでも凄いよ。
*
それからは王道通り生徒会室に行って皆でワチャワチャした。本音は俺も授業行きたかった。どうせ騒ぐだけだろうけど…でも、教室だったらクラスメイトの邪魔しちゃうし、ある意味では生徒会室にいるのが最善なのだろうけどさ。でも、それでも…生徒会室は疲れる。佐伯と大谷は生徒会室への入室を生徒会のメンバーが許さなくて渋々教室に戻って行ったけどね。
生徒会室に行ったら変なとこベタベタ触られたりして気持ち悪かった。怪しまれないように自然に避けるって難しいな。スルースキルが上がったかも。
廊下を通ったとき、物凄く嫌な視線を感じた。気のせいだと思いたい。
*
生徒会室を出て、追いかけてきた生徒会のメンバーを振り切って下駄箱に靴を取りに行く。気になることもあるし、少しの自由はいいよね。活発って設定だし。どうせ生徒会は俺を探しているだろうし、仕事はしてないだろう…なんて、そんなこと考えてると悲しくなる。ナルシストみたいだ。違うけど。
そうこうしているうちに、下駄箱に着いた。下駄箱を見て俺は一瞬固まった。え、どうしよこれ。遅すぎたっぽい…
「はぁ…」
下駄箱の惨状を見て思わず溜め息がでる。いや、分かってはいたけどね。これは予想以上に酷い。マッキーで書いたような沢山の落書きや、墨汁みたいなのも付いてる。かなり汚い。他にもゴミとか入れられてる…はみ出してるし。俺の近くの人の下駄箱にも被害あるし、うん。ごめんね。
*
「あーあ…どうしようかな」
下駄箱やべぇな。いくらお金を持っていても物は大切にしてほしい、切実に…それに、これは学校の公共物なのだから落書きとか汚れとかつけないでほしい。地味に臭いし、何の臭いだろうか?考えたくない。
今日は下駄箱だけだったけれど…いつもは机にもいろいろ書いてあるんだよね。初めの頃はベタすぎて写真に収めたくなったよ、してないけど。写真撮りたかったのはわりと本気だった。ほらイメージ崩れるからやってないけど。それを本気でやると王道じゃなくなるし、ただの変人。生徒会いなくて心底良かったと思うよ。
あの時廊下で感じた嫌な視線はもしかして親衛隊だったのかもしれないな。
…まあ、決めつけはよくないか。
*
――…そんなことが数日続き、ついに恐れていたこと―事件が起こることになった。
あの人からの連絡もなく最近はとても平和だった。平和だからこそか、何故か胸騒ぎがする。それこそ何か大きなコトが起こるような。
それでこそ王道。
予想はだいたいつくけど不安だ。全て完璧に俺の考えた道筋通りになれるとは思ってない。だけど、あまりにも違いすぎると計画が狂ってしまう場合がある。間違わないで、進むんだ。
さあ、賽は投げられた。
いいや、とっくに投げただろう。大丈夫だから。俺はきっと…大丈夫だから。
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