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ボクが生んだ亀裂
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――ドガッ、ガンッ。
――カシャンッ。
色んな音が、響いていた。
ボクの意識は重く、覚醒しない。
「何してやがんだよっ!」
響いた怒声は、多分、琉の声。
押さえつけられながら、暴れているような雰囲気が感じ取れた。
「がっ………」
発したいのに、言葉にならない兎羅の音が聞こえた。
威嚇するように放たれる音に、暴れる琉の雰囲気が伝わる。
ふわんっとボクの身体が、横抱きに抱え上げられた。
でも、身体に力が入らなくて、腕すら持ち上がらない。
ボクは、誰に抱えられているのだろう。
感じる空気は、琉のそれとも、兎羅のそれとも違っていた。
ボクは、抱えられたままに運ばれる。
足の鎖は、外されているようだった。
カツンカツンと革靴の音が、耳の奥に響いていた。
微かな空気の振動の、酷く掠れたダミ声が、耳に届いた。
『兄さんは…、バカだっ』
きちんとした音にならない声が、言葉を紡いだ。
普通に放たれる声よりも、ボクの耳には響く音だった。
少し離れたところから聞こえた声。
たぶん、兎羅の声……。
初めて、兎羅の声を聞いた。
最後の、兎羅の声だった。
ほんの少しの空気の振動。
初めて聞いた兎羅の言葉は、油断していたら聞き取れないほどの繊細な音。
一瞬の隙間に聞こえた、呆れるような、捨てるような、声色だった。
でも、その音の中には、悔しさとか苛立ちとか、兎羅のあらゆる心情が込められている気がした。
兎羅の憤るような雰囲気と、琉の悲しそうな雰囲気。
兄弟の間に、埋められない亀裂が生じたように感じた。
兄弟で上手く取っていたバランスを、ボクという重りが、崩した……。
ボクがここに居なければ、ボク自体がこの世に存在しなければ、彼らの関係が崩れることは、きっと無かった。
絶妙なバランスで保たれていた彼らの関係に、ボクという存在が楔を打ち込んだ…、気がした。
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