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終幕 side J
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[さよなら、マーク。さて、キミの隊長がどこまでやれるか。お手並み拝見といこう。]
散々私を振り回し、貶め、疲弊させた相手は、そう宣って悠々と去って行った。
それでも、なぜか憎めなかったのは、彼の気持ちが判ってしまったからだろうか。
愛する者を失い、一緒にすごした故郷さえ、既にどこにも存在しない。
永遠に近い時間、広い異次元空間を一人ひたすら彷徨い続ける運命…。
それは、たとえ私につけ入る為の芝居であったとしても
彼が胸に秘めた孤独や後悔は、長年に及ぶ隊長への想いを胸の奥へ沈めたままでいる私の共感を呼ぶに充分な材料だった。
彼からの一方的な離脱により、文字通り半身をもぎ取られた私は、一時死の淵をさ迷った。
途方もない痛みと、彼と共有していた記憶の断片に苛まれながらも、何とか自力で起き上がれるまでに快復出来たのは
一応少しは配慮してくれたらしい彼の温情と
この時代のテクノロジー
後は、ガードナー隊長を始めとする人たちの手厚い看護があってこそだろう。
とは言っても
隊長の過保護は日に日にエスカレートしていて、私を居たたまれない気持ちにさせる。
見るにみかねて、交替を申し出てくれるスミスがいてくれなくては、成り立たないこの関係は、もうとっくに破綻している。
あの人が私を部下としか思っていないことは、充分過ぎるぐらい解っているのに…
車椅子なしでは、何処へも行けぬ体となっても、まだ[腹心の部下]という役を降りたくないのだ。
―墜ちたものだな。
そう自嘲する時、ふと考えてしまう。
あのまま、宙の果てへと彼と共に旅立てば、良かったのではないかと…。
「ジョンソン。またどこか、痛むのか?」
「いえ、そういう訳ではありません。」
「じゃあ、…ヤツのことを考えていたのか?」
「っ!?」
強い口調に、一瞬ドキリとした。
「ぁ…いや。何でもない。今のは、きかなかったことにしてくれ。」
テーブルへ乱暴に置かれた買い物袋から、真っ赤なリンゴが転げ落ちた。
「隊長?」
「あぁ、すまない。何か別の袋をもらってくる。」
床へ落ちたリンゴはそのままに、走るように出ていってしまった。
会話中も、ずっと顔をそむけて、一度もこちらを見なかった…。
そんな些細な事が、ひどく胸に堪えた。
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