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手首を引いたままエレベーターに乗り込むと、七瀬に手を振り払われた。
「なに?」
戸惑った顔、つれない態度にムカッとする。
「あの女が階段とこにいたんだよ」
それを聞いてビクッと肩を揺らしたものの、七瀬はオレから目を逸らしたまま、口を開こうとしなかった。
3階の受付には、来た時と同じ女性スタッフがいた。
「さっきはすんません」
にっこり笑って声を掛けると、スタッフはオレと七瀬とを見比べて、「会えました?」ってにこにこと言った。
「お陰様で……」
愛想笑いを続けようとした時、横からぐいっと押し退けられる。やったのは七瀬だ。
「お先に」
にっこりと女性スタッフに笑い掛けた後、「おい」と文句言うオレを置き去りにして、スタスタとジムを後にする。
「待てって」
肩を掴んで呼び止めると、冷やかな目線が返って来た。
客とか同僚にはにこやかにしてるくせに、何なんだ、っつの。オレも客だろ?
「お前な……」
文句言いかけて、ハッとする。
地下鉄の入り口の向こうに、小柄な女が立ってんのが見えた。
「……メシ、そっちじゃねーだろ」
適当な事を言いながら、女の方をアゴで差す。
さっきの今だし、言いたいことは分かったんだろう。七瀬は顔をこわばらせ、大人しくオレについて来た。
小柄なのは厄介だ。雑踏の中に紛れて、つけて来てんのか諦めたのか、それすらハッキリしねぇ。いっそ走り出したかったけど、それも何か怪しいし。
適当な居酒屋に入り、1時間くらい過ごしても、なんかまだその辺にいそうで怖かった。
「何なんだよ、あの女」
乾杯もなくあおったジョッキを、ゴトンとカウンターの上に置く。
七瀬はオレの真横でチューハイをちびちび飲みながら、「うん」と気のねぇ返事した。
「普通は、ちゃんと断ったら諦めてくれるんだけど」
「普通じゃねーだろ、アレ」
七瀬からの返事はねぇ。
5年ぶりの会食は、店に入った時からこんな感じで、会話が弾まなくて苦笑するしかなかった。
別れる直前、せがまれるまま会ってた時だって、こんな気まずくはなかったと思う。七瀬はしきりに喋ってたし、いつもにこにこ笑ってた。
今、こんなに喋りにくいと思うのは、視線が合わねーせいもあんのかな?
つい癖でカウンターに座っちまって、今は逆に後悔してる。
1人で座るテーブル席は苦手だ。でも、2人で座るカウンターも、なんか違う。
隣に座る七瀬が何を考えてるかも分かんなくて、黙ったまま焼き鳥を頬張り、ビールをあおった。
空になったジョッキを、もっかいカウンターに戻した時――。
「姿勢悪い」
そんな声とともに、いきなり背中を叩かれた。
「うわっ」
悲鳴を上げて七瀬を見ると、視線が合って、ドキッとする。ほんのり酔いの回った顔。でもやっぱ目線には甘さがなかった。
「キミ、猫背だ」
にこっともしねーで告げられたって、「そうか」としか言いようがねぇ。
焼き鳥をもう1串頬張り、八つ当たりみてーに咀嚼してると、更に言われた。
「猫背だと、お腹出るよ」
って。大きなお世話だっつの。
やっぱ腹、ヤベェのか? 隠すように左手を腹に当てると、それを見て七瀬が、ふふっと笑った。
一瞬だけ向けられた笑顔。
すぐにふいっと逸らされたけど、口元はほんの少し緩んでて、じわじわと胸が熱くなる。
体が熱い気がすんのは、酒のせい? 七瀬がほんの少し近いのは?
そっから大して会話らしい会話もなかったけど、一度湧き上がっちまった愛おしさを、抑えることはできなかった。
居酒屋を出た後、七瀬の手首をぐっと握る。
「……駅でまだ、待ち伏せしてっかも知んねーだろ」
そう言って、ほろ酔いの顔を見つめると、七瀬も抵抗はしなかった。
ホントは、待ち伏せの可能性なんて疑ってなんかなかった。でも多分、七瀬だってそれは分かってたと思う。
電車に乗って3駅。再び手首を掴んで引くと、七瀬は何も言わず、オレんちの最寄駅で降りてくれた。
コンビニに寄るような余裕もなくて、無言のまま狭いアパートに連れて行く。
狭い玄関で靴を脱ぎ、緊張した顔で部屋の中を見回す七瀬に、相変わらず甘さのカケラもなかったけど。
「お前がいねーと、うつむいてばっかだ」
抱き締めて軽く唇を奪っても、「イヤだ」とは言われなかった。
引き結んだままの唇を舐めると、ひくっと嗚咽みてーな音と共に、深いキスが許される。
5年ぶりのキスは甘くて、互いにぎこちなくて笑える。
「悪ぃ、ゴムも何も持ってねぇ」
服を脱がしながら謝ると、七瀬がふっと口元を緩めた。
「持ってる方が、引くよ」
ほんの少し掠れた声。余裕っぽい態度。記憶にあるより少し大きくなった体は、相変わらず白くてキレイで、しなやかな筋肉をまとってた。
頑張ってる体だ。
毎日汗を流して、鍛えて、前へ前へと進んでる。
ベッドの縁に座り、キスを繰り返しながらキレイな肌に手のひらを這わすと、されるがままだった七瀬の手が、オレの背中に回された。
シャツの下に潜り込み、背中をそっと撫でる手のひらが冷たい。
じゃあ、オレの緊張もバレバレかな? 張りのある背中、見事に割れた腹筋、少し厚みの増した胸筋。どれもスゲー愛おしくて、たまらず押し倒し、胸元に吸い付く。
「キミも脱いで」
ひそやかに命じられ、ためらったのは一瞬。バッとシャツを脱ぎ捨て、上から覆い被さると、冷たい手のひらがオレの胸を押し撫でた。
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