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じゅういち。
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「あぁ?何だよ。言いたい事があるならはっきり言えよ。」
「っ、」
「何も言えねぇのか?
ま、必死にお願いされても、俺は聞く耳なんて全くもたないけどなー。」
そんな生意気な態度をとる兎代に、
寧々は我慢できなかった。
盛大に床を踏み鳴らし、大きな声で叫ぶ。
ダンッッッ!!
「〜〜あぁ、もうっ!!
何でこんなに上手くいかないのねっ!!」
突然口調の変わった彼女に、兎代は目を大きく開かせた。
キッと兎代を睨みつけると、寧々は彼の腕を掴む。
「ちょっと来て。」
「お、おい!!」
「春真!!私、彼と少し話をしてくる。だからここで待っとって!」
そう言うと彼女は無理やり兎代を連れ、廊下へと足を運んだ。
奥にある物陰の方に隠れると、寧々は兎代の腕を解放する。
「………なんだよ、そんなに説得されたって俺は頷かなねぇぞ。」
兎代が後ろ姿の寧々に問いかけると、彼女は正面を向いてこう言った。
「お願い、私に協力して。」
「はぁ?」
怪訝な顔をする兎代に、寧々は真剣な顔で話を続ける。
「私は本当にあなたと婚約しようなんて思ってない。
ただ協力してもらおうと思って、言っただけ。」
「……協力?」
兎代が反復して言うと、寧々はコクリと頷いた。
「私の付き人、春真に嫉妬させたいの。」
その言葉に、兎代は眉間を顰める。
「………それは、なんで?」
寧々は視線を逸らして言いにくそうに、ボソリと呟いた。
「…………好きだから。」
「……………。」
完全に私情が入った理由に、兎代はため息をつく。
「そりゃ個人で解決するもんだろ。初めて会った俺にそんなこと求めるな。
やるなら他の奴をあたれ。」
「……っ、違う!それもあるけど、他にも理由があるの!」
「じゃあ、なんなんだよ。」
「……っ、」
寧々はスカートをギュッと握り締めた。
幼い顔を悲痛で歪め、必死な表情でそれを訴える。
「……春真は……、春真は私を人間として見てくれないの……。
初めて会った時からそう。彼女はずっと、私の背後にあるものばかり見ているからっ……!」
すると紅葉色の瞳から、
ポトポトと涙がこぼれ落ちる。
それは高級な絨毯に、点々とシミを作っていった。
突然の寧々の涙に、さすがの兎代もギョッと驚く。
「お、おい……!?」
「……あなたにも、大切な人がおるなら……分からんの……。好きな人に……全く見てもらえん気持ちが……。」
その言葉に兎代は息が詰まった。
「っ、」
やがて寧々は涙を流しながら俯いて、ちょぼちょぼと泣き言を溢し始める。
「……うぅ…もうダメだぁ……。
…わたし、しぬ……。……このまま、はるまに…一生にんげんとして見てもらえないんだぁ……。
……っ……う……、チーズ食べたい……。」
最後の言っている言葉は意味不明だが、相当参っているらしい。
兎代はその姿をジッと観察する。
コイツの姿はまるで幼い子供、いや、小動物が泣いているようだ。
彼は寧々が最後に放った言葉を思い出す。
『……あなたにも、大切な人がおるなら……分からんの……。好きな人に……全く見てもらえん気持ちが……。』
ーーーそれを聞いた瞬間、兎代の頭の中で伊月の姿が浮かび上がった。
そうか……、コイツは……
ハッと何かに気づいた兎代は、再度泣きじゃくる寧々を見つめる。
(……あの時の俺と、同じ感情なんだ。)
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