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伊月のお仕事3
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*
日高がそう言うと、楓の隣で泣き始める1人の男。
「うっ……ううっ……!」
「って、あらやだ。
雲仙、何でアンタが泣いてんのよ。」
「グスッ……何かぁ、もう感動しちゃって。俺の心にグッときちゃいましたぁ…。
楓さんに唯一無二の存在ができて、俺も嬉しいですっ!!」
「おい、俺に触んな。キモい。」
そう言って抱きついてくる雲仙に、伊月はとても嫌そうな顔をしてその身を剥がす。
「なんでれすかぁ?酷いっすよ楓さーーん!」
「あ、これ楓のテキーラだ…。
アンタ、お酒弱いのに何してんのよ。烏龍茶と間違えて飲むなんて馬鹿じゃないの。顔が真っ赤じゃない。」
「え?テキーラ…?そっかぁ、道理で苦いと…思っ…た……。」
バタンっとその場で倒れた雲仙に、日高は大きなため息をついて、その身を担ぎ上げる。
「全くしょうがない子なんだから。
楓。ちょっとこの子、仮眠室で寝かせてくる。」
「ん、了解。」
「あ、私が戻ってくる間に兎代くんの様子でも聞いてくれば?
星野と連絡取れるんだし。」
その瞬間、伊月の表情が少しだけ明るくなった。
(あらあら、そんなに嬉しそうにしちゃって……。)
「…そうですね。星野に少し様子を聞いてみます。」
雲仙を担ぎながら、日高は軽く息を吐く。
「……変わったなぁ、あの子。」
ツカツカと廊下を歩きながら、先ほど思ったことを口にしてしまう。
ひと昔前は本当にひどかった。
誰にも頼らず、寄り添わない。
生まれた時から家に縛られ、心も身体もボロボロになって荒れ果てた彼を、誰も救おうとしなかった。
私が初めて楓に出会った時、それは恐怖でしかなかった。
戦場で多くの場数を踏んだ私でさえも、彼に怯え畏怖してしまう。
まだ学生だった彼に、この私が一瞬で勝てないと悟ったほどだ。
そんじゃそこらのプロでも、彼には絶対に叶わない。
だから皆、彼のそばに近づけなかった。
(だけどそれから2年…、彼は兎代くんと出会って変わった。)
周りと協調性をとるようになり、笑顔が増えた。
「あそこまで変えるんだもの。やっぱり十二支(じゅうにし)の存在は凄いわね。」
強い運と引き換えに、厄介な体質を請け負った可哀想な子ども達。
彼らは存在しているだけで、日々命を狙われる。
それを守るのが月華の役目。
だからあの2人が出会ったのは、必然。
それほど月華と十二支はとても深く強く結ばれているのだ。
(あの子が死んでしまえば、彼はただの殺人鬼になってしまう。)
だからどうかお願い。
あの2人の繋がりを、互いの存在意義を消さないで。
"これからもこの幸せな日常が、ずっと続きますように…。"
心の中でそう祈って、彼女はその場を後にした。
おわり。
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