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春の短編 番外編?伯田兄?
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この年の桜は開花予想通りに満開だったのに、伯田家周辺の桜だけ狂い咲きをした。
それはとても異様な光景で、不吉だと口にしたものもいれば何かの吉兆だと言うものもいた。
そんな中、その中心に位置する伯田家の一本桜は見るも無残な斑葉に弱った枝にこそげた幹。
一族誰もが楽しみにしていた恒例行事の花見は庭先でなく狂い咲きした近隣の桜で行われた。
騒ぐ一族から離れ、静寂を保った伯田家の庭先にひとり佇むのは、その家の長男。
手慣れた様子で甲斐甲斐しく世話をする割には少し頼りのないその後ろ姿は、何処か儚く、桜の散りゆく情景にも似ている。
そんな彼が何かに気付いて見上げた先。
誰もが消沈して振り返らなかった一本木。
こそげた幹から伸びる、支えがないと不安定な枝へと青年は手を伸ばす。
青年の身長に一番近いところ。
手の届く一番近いところ。
「……あ。満開だ、ありがとう。とても、綺麗だよ」
青年が触れた細く頼りのない枝先。
たったひとつの桜の花が咲いていたそうだ。
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