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半年前のどしゃぶりの日。
ずぶ濡れの男の人が店に飛び込んできた。
ボサボサの長髪は雨水が滴り落ちていて、べったりとくっついたシャツは透けて細身ながらも筋肉質な身体が伺えた。
兄より年上位、だろうか。物静かなその人は消え入りそうな声で「贈り物の花を、お任せで」と注文してきた。
どういった方へ贈り物をするのかわからなかったけれど、見た目としては自分好みだったその人が、どんな人へ贈り物するのかが単純に気になった。
ここは飛び切り喜んで頂けるものを差し上げよう。
贈る方には勿論だけれど、なにより、彼に。
彼が手に持って、綺麗だと笑って貰える様な、そんな優しい花を差し上げよう。
俺がそんな意気込みでつくっている間、彼は渡したタオルで髪や身体を拭いて大人しく店内の植物を眺めていた。
程なくして出来上がった花束を手渡すと、彼は黙ってその花束を見つめ、
大粒の涙を零して泣いた。
心臓が跳ねた。ずぶ濡れのときはそこまでハッキリとわからなかったけれど、なんて綺麗な人なんだろう。
「すみません…やり直し致しますか?」
「いえ…あまりに美しくて、優しくて、感動しました。こんなに素敵な花束…とても喜んでくれると思います、ありがとうございます」
お代を済ませて深々とお辞儀をして店を出る彼。
目を真っ赤にして、大切に大切に赤子を抱くように俺が作った花束を、これからどんな人へどんな顔で贈るのだろう。
同じように深々とお辞儀を返してお見送りすると、何度も振り返って頭を下げるから、自然と笑顔で手を振った。
いつの間にか晴れた空は雲もなく、グッと伸びをしたら虹が出ていた。
また、来てくれたらいいな。
そんな仄かな期待に頬を緩めて、その日はずっと笑顔が零れていた。
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