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れいんぼう ろうざ。
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「レインボーローズ、10本の花束で大丈夫ですか?こんな感じになりました……」
「こんな色なのですか……実際に目にする方が綺麗ですね。ありがとうございます、じゃあ、また夜に」
「あ、はい!仕事終わったら連絡ください!」
昼休憩に注文の品を受け取りに来た彼へその花の行き先を遠回しに問い詰めようと思ってたのに、にっこりと優しく微笑まれて見惚れていたらまんまと聞きそびれた。
それ、本当に誰に贈る為に選んだんですか。ちょっとヤキモチです。
モヤモヤと仕事に集中出来なかったのが仇となって、全くといっていいほど作業が進んでなく。時計に目をやったらもう約束の30分前になっていた。
どう急いでも後一時間はかかる!
慌てて携帯を確認すると、そこには一通のメールが届いていた。
【楽しみにしていたら仕事が捗ったので、先に部屋に上がっています。
あまりに遅いと寝てしまいますよ(笑)】
時間のすれ違いが多いから、互いの部屋の合鍵を持つようになっていたのだが、完全に遅刻することが見抜かれていることに余計焦りを感じて、すぐさま謝罪と約束の時間に30分程遅れてしまう旨をメールして慌てて残りの仕事を再開した俺は、宣言通り30分の遅刻で彼の元へと帰宅した。
「お帰りなさい、お疲れ様。準備するのは鍋の中のものだけで良かったのかな?温めておきましたよ」
そういって出迎えてくれた彼は待ちくたびれた筈なのにとても優しい顔で微笑むから。
嬉しくなって飛びつくように抱き付いた。体格は然程変わらないけれど俺より少し身長が大きくて俺より少し細身な彼の胸は、温かくてゆっくりと心音を刻んでいて。何だかそれさえも嬉しくて頬が緩む。
「お腹空きましたよね、温かいうちに食べましょう?」
「そうですね…!今すぐ用意しますから、座っててください!」
互いににっこりと微笑んで、身を寄せ合ったところから離れても柔らかな空気はそのままに部屋に入ると、テーブルの上に一輪挿しが用意してあった。
「え、レインボーローズ…」
大きく振り返ると、柔らかく笑みを浮かべて頷く彼の顔がそこにあって、ぐっと眉間に皺が寄った。
「レインボーローズの花言葉、知ってます?」
「あれ?もしかして不穏なものだったりする?」
「違いますよ…無限の可能性、です」
「そっか…じゃあ、僕たちは運命の出会いだったのかもしれませんね」
「はい?」
「伯田くんと出会ったあの日、帰り道に大きくて綺麗な虹が出ていてね?手には伯田くんが用意してくれた素敵な花束、空には虹でしょう?僕それにすごく感動しちゃって」
だから、丁度バレンタインだし虹色のものをプレゼントしたいなって思って本人に頼んでしまいました、と笑う彼が濁ってよく見えないです。
伯田くんの告白が薔薇の花束だったから薔薇でお返ししたくて、と照れ臭そうに頬をかく彼のその仕草が濁ってよく見えないです。
あの日、俺の見た虹を同じ瞬間に一緒に見ていたんですね。
その感動の瞬間に俺を思い浮かべてくれていてありがとうございます、本当に、本当に、嬉しいです。
「あれ…でも、花束は10本でしたよね?」
服の裾で目元を擦って気付いたこと。そうだ、花は10本取り寄せて綺麗に包んだはず。
「そうでしたね、じゃあ、探してみてください」
促されたことに頷いて探し出すと、それはまるで宝探しをするかのように心を躍らせる。
トイレ、洗面台、風呂場、キッチン、先程は気付かなかったけど玄関、サイドボード、パソコンデスク、テレビ横……と、丁寧にみな一輪挿しにして飾ってある。
メール寄越した時間は嘘でしょう、これはもっと早くから用意してたって事くらい俺でもわかる。
それにしてもおかしい。後ひとつが、いくら探しても見つからない。
うろうろと躍起になって探していたら、バレンタインの終わりまで残すところ後5分となってしまっていた。
「もう限界かな?」
「どこに隠したんですか?降参です……タンスの中とか言いませんよね?」
「それ不正解。布団、捲ってみてくれますか?」
「布団?花が潰れちゃいますよ……え……」
指定された掛け布団を捲ると、そこには小振りな箱が鎮座していた。
視線を移すと頷くので、ゆっくりと蓋を開けるとそこにはレインボーローズとシンプルな指輪が入っていて。その光景に対して言葉にならない驚きに文字通り固まっていると、後ろから腕が伸びてきて長い指が指輪を摘み上げる。
その指の行き先を追うが早いか、己の左手を取られるが早いか。
俺のゴツゴツした荒れた手をそっと優しい手付きで撫でられると、先程攫われた指輪が薬指にすんなりと収まった。
「壱(いち)さん……これはキザ過ぎますよ」
「そうだね、でも伯田くんがモテるのは妬けるから虫除けのつもりです」
「いつになったら名前で呼んでくれるんですか」
「そうだね、じゃあ……キスが終わったら」
2月14日、23時59分。
触れ合った唇はチョコレートよりも甘く蕩けていて、甘いものが苦手な俺たちでもこれはとても好きだと思えた。
俺たちの可能性は無限大であって欲しい。
だからこそ、ひとつひとつを今もこれからも大切にしていこう。
ハッピーバレンタイン。
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