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『こっちの担任もあれだけど、Sクラスの方はインパクト凄いな…。』
隣を歩く隆が小さく声を漏らす。
こくこくと頷きながら同意していると教室のある校舎から離れ会場が見えてきた。
会場内はざわついていた。
皆の視線は一つに向かっていて晒されているあの人がほんの少し可哀想に思えた。
『皆さんの席はこちらです~。』
促された席から覗き見た綺麗な人は教師席側に視線をやり後方から突き刺さる視線を物ともせず凛と佇んでいた。
強い人だな、と憧れはめきめきと育ち敬愛の眼差しに注がれる。
『そんなに気になるのか?』
僕の視線を辿った隆が口を開いた。
「凄い、綺麗なんだ。
あんな人をもっと綺麗に出来たらいいよねぇ。」
『したらいい。
確か手芸部が衣装提供だった筈だ。』
「え…?
そうなの?」
ということは手芸部に入部さえしてしまえばお姫様を着飾ることが出来る。
「入る…。
手芸部、今日入部してくる!」
溢れる喜びに笑顔が漏れてしまう。
真っ直ぐに見詰めた隆の顔はほんのりと赤くなっていた。
談笑しているとステージに姿勢正しい生徒が上がった。
風紀委員会会長が壇上に上がり凛とした声が入学式の開始を告げた。
淡々と式は進み、新入生挨拶にお姫様が呼ばれた。
『新入生挨拶。
立花 雪、こちらへ。』
涼やかな声が会場に響いた。
『はい。』
すっと立ち上がるその姿は華やかで白色のジャケットがとても映えていた。
ゆったりと歩を進めるその先で眼鏡を掛けた長身の男性が立ち上がった。
自然と寄り添い笑みを交わす二人は甘やかな空気を纏い壇上へと上がった。
マイクに向かうお姫様は匂い立つ色を纏い口元を引き上げていた。
取り出した原稿をつらつらと読み上げるお姫様の声は耳に心地良く会場全体が一声も漏らさず聞き取ろうとしていた。
しんと静まりかえった会場にごそ、と雑音が走った。
『進行変わるけどこのまま理事長挨拶行きます。』
お姫様の横に立ち控えていた男性が口を開いた。
理事長は渡良瀬と名乗り淡々と挨拶を述べた。
優しげな表情とは変わり声はしっかりと芯を持ち抗う気を削ぐ、不思議な雰囲気だった。
そうか、霧生組の渡良瀬といえば若頭だった筈だ。
惚けていた生徒達に僅かな緊張が走ったその時、爆弾が落とされた。
『立花 雪は俺の奥さんだから手出ししたら誰であろうが潰すからな。』
びり、と鼓膜を揺らす低音が会場に響き渡った。
広い会場に無音だけが酷く煩い。
抱き込まれたお姫様はほんのりと頬を染め嬉しげに寄り添っていた。
『あははははっ、ひひっ…!!』
途端に豪快な笑い声が静寂を破った。
目を向けるとげらげらと笑う和装の男性。
後ろに控える黒スーツに男性の職業が頭を過った。
『雪は霧生組に嫁いだ!
俺の子どもでもある、なんかあったら霧生組が総力を挙げて潰しに行くかんな!』
名乗らずとも霧生組を率いる立場である事をありありと伝える霧生組組長に教師たちを含め皆唾を飲み込んだ。
壇上からは楽しげに笑う理事長の声がマイク越しに伝わっていた。
そのまま済し崩し的に姫の任命が行われた。
壇上に生徒会長と現姫を担当する上級生が上がり新たな姫にブローチを授けた。
なぜか幻想的に見えるその光景を食い入るように見つめた僕は堪らず声を上げていた。
「雪様ぁー!
お似合いですー!」
拍手に包まれはにかむ雪様に必死に声を張り上げた。
そろ、と動いた視線に捕まった瞬間どくりと心臓が脈打った。
にこりと笑みを溢した雪様に生徒達から歓声が沸き上がった。
歓声の中、口々に評を述べる声が囁かれる。
人目を引き寄せてしまう雪様に不安が過った。
教師側からの圧はこれで充分だ。
しかし生徒側は色に中てられ良からぬ動きをする者も出てくるだろう。
まとめる組織が必要だと、考え込む僕の耳は教室へ促す隆の声も素通りしていた。
気が付いたら教室に戻っていた僕は早速動き始めた。
まずは、手芸部だ。
「隆、手芸部の部室行ってくるね。」
「ああ、着いて行こうか?」
「大丈夫!」
振り返りもせず背中で言葉を返した僕は廊下を駆けた。
確か特別棟って隆が言ってた筈だ。
勢いそのままに開いた手芸部の部室内はかたかたとミシンの音だけが響いていた。
「失礼します!」
入り口で声を張るが返事は無い。
かたかたかた、変わらずミシンだけが動き続けていた。
「入りますよ。」
一応声は掛けた。
ミシンの音目指して脚を進める僕が目にしたのは色取り取りの衣装の数々だった。
鮮やかなサテン生地にふんだんにあしらわれたレース。
トルソ一つ一つが輝いていた。
息を飲み衣装を繁々と見ているといつの間にかミシンの音が止んでいた。
気が付かずに衣装を眺め続けていた僕に不意に声が掛かった。
『誰―?』
「っ!」
『あー、ごめんね。
驚かせちゃったねー。』
少しのんびりとした声が僕を出迎えた。
「あ、あの!
入部希望なんですけど!」
発した言葉に返されたのはきょとんとした表情。
数秒沈黙が流れ、首が傾げられた。
『入部?
君が手芸部に?』
そんなにも以外だったろうか?
タイピンで3年だと分かる目の前の生徒は顎に手を当て何かを考え込んでいた。
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