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約束
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最近、篠宮が公害と一緒に行動しているところをよく見る。
公害っつーのは、俺こと、睦月翔が呼んでる、安曇野尋のあだ名だ。
うるせぇし、モノ壊すし、害しかねぇだろ?
それはともかく、篠宮まで公害の虜になったなら、きっと、本当に学園はお終いだ。
アイツはヘラヘラしながらも、仕事は早いし、結構気が利く。
会長の一ノ瀬に聞いたところ、料理も上手いらしい。
ということは、頭がよくて、気が利いて、人気があって、料理も上手、仕事も早いという、完璧人間ということだな。
そんな完璧人間なら、是非とも風紀にほしい。
それはともかく、篠宮まで公害の……うん? さっきも言ったような気がするな。
という訳で、だ。
俺は篠宮を風紀室に強制連行し、事情を聴取することにした。
「つー訳だ」
「えwどういう訳?w」
ヘラリと笑ったソレに若干イラついたが、今はまぁ、流すとしよう。
「お前が公が…………安曇野に惚れてるらしいって噂が流れてる」
「ちょwちょっと待ってwww
委員長www安曇野くんのことwなんて呼んでるの?w」
「今はソレ、どうだっていいだろ!」
「えー?
教えてくれたら僕も話すよ」
コイツ…………
「………………公害だ」
「こうがwww公害っ?w」
篠宮は腹を抱えてケタケタと笑った。
なんだ、ちゃんと笑えんだな。
結構いい顔してんじゃねぇか。
ま、港醍には敵わねぇけど!
「あはははっ、ははっ、はー……
あー……なんかすっごい笑った。
えっと、なんだっけ?
あ、そうそう、安曇野くんに惚れてるって噂?
冗談www
僕、ああいうの苦手だもん」
結構さらりと言うもんだな。
「なんか懐かれてるっぽいんだよね。
どうしたらいいんだろ」
「突き放せばいいだろ」
「突き放す、って、どういう風に?」
「普通に、お前のこと嫌いだからとか。
まあ、それじゃあんまりだから、苦手だとか、話が合わない、とか」
「へぇ。
委員長ってすごいんだね」
「あ? 普通だろ。
高校生にもなりゃ、嫌いな奴との接し方くらい身につくだろーよ」
「そっか……そうなんだね」
途端に声量が小さくなった篠宮に目を向けると、さっきまでのヘラヘラした態度はどこに行ったのか、寂しそうに目を伏せていた。
こんな篠宮は見たことがない。
怪訝に思って見つめていると、目を伏せたまま、篠宮は口を開いた。
「僕が嫌いな人は、皆僕のこと嫌いだから、勝手に離れてくんだ。
だから、そういうの、ちょっとわかんないかな……」
そう言ってから篠宮はパッと顔を上げた。
その表情は既に、いつも通りのヘラリとした笑顔だった。
「これって初体験じゃんw
あー、でも、ハッキリは言えないかな」
「……それは人によるからな。
ただ、他の人に言ってもらうって手もあるぞ?」
「そっか。
…………でもさ、さっきちょっと考えたんだけど、安曇野くんが暴れないように僕が近くで見てればいいんじゃないかな?
話聞いてれば何もしないし」
「お前はそれでいいのか」
「うーん……いいんじゃない?
四六時中一緒って訳じゃないしさ」
「そうか」
篠宮はヘラヘラと笑っているが、コイツ、本当はとんでもないものを抱えてるんじゃないか?
それにさっきの話だって……
アレが本当なら……
そこでふと、あることを思い出す。
「なぁ、聞いていいか?」
「いいけど、答える約束はしないよ?」
鋭いな。
俺は座り直して、篠宮と目を合わせた。
篠宮も流石に俺の心情を汲み取ってか、笑みをおさめてくれた。
「前の学校で何をした?」
「何って……生徒会長?」
「違ぇ、そうじゃねぇ」
逃がすかよ。
俺が睨むと、篠宮は観念したように視線を下げた。
だけど口は開かない。
答える気がないのか?
しばらくそんな篠宮を見つめていると、ふいに短く息を吐き出した。
「暴力沙汰」
なんのことか分からない。
篠宮はひと呼吸置いて、俺と目を合わせてきた。
「暴力沙汰で退学になったの。
怪我をさせた人数は9人、そのうち4人は教師で、生徒のうち3人は重症だったって」
まさか。
どれも信じられ無い話だ。
篠宮が暴力を振るうことも、怪我をさせた人数も。
「僕はね、その時のこと、記憶が曖昧で……
怖いよね、人間って。
ああいうの、極限状態って言うのかな。
とにかく憎くて、無我夢中で殴りつけてた。
…………気がついたとき、僕の足元には憎かったソイツが居て、顔の原型をとどめてなかった」
それだけ憎かった相手は、コイツに何をしたんだろう。
その話を話している時の篠宮の目には、微かにまだ、怒りや憎しみの感情が見えた。
「周りは皆僕を見てた。
怖い……って、そんな顔してね」
「……原因はなんだ?」
俺がそう聞くと、途端に篠宮の目が妙に冷めたものに変わった。
その変化に驚いていると、篠宮は静かに腰を上げた。
「悪いけど、そこまで話す義理はないと思うよ」
「けどな、俺は風紀委員長として」
「じゃあわかった。
これだけは約束するよ。
この学園ではそういう問題は一切起こさない。
絶対に、約束する。
これでいいでしょ?
ならもうほっといて」
篠宮はそのまま風紀室の扉の前へ行って、手をかけた。
「あぁ、そうそう。
このことは秘密ね?
港醍くんにも言っちゃダメだから!」
そう言って振り返った篠宮の目には、さっきまでの憎しみも冷たさも残っていなかった。
いつものムカつく笑顔、いつものヘラヘラとした態度で背を向けた。
胡散臭い奴だと思ってたが、いや、それはまだ思ってるが、俺は正直、アイツが少し怖かった。
暴力沙汰に対してじゃない。
喧嘩なら俺だって何度もしてきた。
いくら温厚な奴だって、糸が張っていれば切れることもあるだろう。
俺が怖いと思ったのは、アイツの表情の変化だ。
あの目が、言葉が、雰囲気が本当なら、普段あんな風に何も悩みなんてないように他人と接することができるか?
アイツはきっと、嘘が上手い。
隠し事も上手い。
……だけど、たったひとつ、どうしても疑えないことがある。
……“約束”という言葉だけは、本当のような気がして…………
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