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他愛もない話を暫らくしていると、玄関の方から「ただいまー」とよく聞き慣れた呑気な声が。どうやら円が帰って来たようで、ペタペタと足音を響かせながらリビングに向かって来ている。
「はーお腹すいたわー」
「おん。おかえり」
「なんや栄もう帰ってたんか」
「さっきな」
円は荷物を床に降ろすとソファへと腰かけ、リモコンを手にする。そのままピッとテレビを付けて眺めだした。そしてテーブルの上に置いていた菓子に手を伸ばしていたので、俺はその手を捻り上げた。
「いたたたた!! ちょっ、なにすんねん!! そんでなんで睦月が俺ん家におるん!?」
「今ごろ気付いたのかよ、遅ぇんだよ!!」
拳を振りかぶって頭上に落とす。ギャッと小さな悲鳴。
「痛ァ……。ちゃうちゃう、扉開けた瞬間から気付いてはいたんやけど全然面白いリアクションが出来んくて」
「誰もそこを求めてねぇんだよ! さっさと反応しろや……」
捻りあげた手をさらに反対方向へ力を籠めると、悲鳴は叫びに変わっていき、「ギブギブ!!」と必死にテーブルをタップして懇願する円。円の分際で俺のこと無視するなんて百億万年早いんだよ。
「相も変わらず仲ええなぁ」
「どこをどうみたら……うう、俺の手ちゃんとした方向にある?」
解放された手を擦りながら涙を浮かべる円と、のほほんと俺たちを微笑ましそうに眺める栄さん。円の言う通りさっきのやりとりを見て、仲が良さそうに見えると本心から言っているのなら眼科受診をお勧めする。どう頑張っても俺が円をいじめている風にしか見えないだろ。こうやって客観視は出来るくせに、俺から円に対しての態度は一向に軟化することはない。
「それはそうとして、なんで睦月が家に? めっちゃ久しぶりやん!」
痛みから復活した円が、ぴょんとソファの上で跳ねて俺の方を向き直る。あんだけ痛い目にあっておきながら数秒後にはなんともない様子で、こうして俺にキラキラとした嬉しそうな瞳を向けてくるので円もだいぶへこたれないというか。こいつの出身は関西じゃなくて、ざわざわ森なのかもしれない。どんなことがあっても、めげない、しょげない、へこたれないという強靭な精神の持ち主。が〇こちゃんかよ。
「家の前で出会ってな、体調が悪そうやったから家に来て休みんかーって声掛けてん」
「え、大丈夫なん? よいしょっと」
「………は?」
「んー熱は無さそうやで」
……いま起こったことをありのままに説明するぜ。円が俺の前髪を搔き上げたかと思うと、俺の額に自分の額を☆KOTTUNNKO☆したんだ。俺自身なに言ってのか分からねぇ。そんなベタな少女漫画みたいな展開が起きるなんてありえないだろう。夢でも見てるんじゃないかって。もしくは俺の拗らせた都合の良い幻覚に違いな……うっせぇ!! 現実だわ!!
「!おま……は……?!」
なんか文句言ってやろうと勢いよく立ち上がったはいいが、全く言葉になってやしなかった。金魚の口みたいにパクパク、パクパク……開閉させるしか為す術が無かった。
「あれ、ちょっと顔赤くなってきてない? やっぱり熱ちゃう!?」
「え! さっきまでは大丈夫そうだったんやけどな。体温計持ってくるわ」
「冷えピタもお願い!」
この後、栄さんが持ってきてくれた体温計で測ったら『35.2℃』と表示されており、全然余裕で平熱でした。
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