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涙
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はぁあ。
橋の上で、特大の溜め息が漏れた。
もうすぐ我が家だと思うと、もう一歩も動きたくない。
―伊佐木は、静と話し合え、言うたけど。
ホンマ、どないに切り出したら、ええんやろ?
『嫁にカムアウトして、離婚することにした。気まずすぎる自宅には帰りたくないし、そろそろ胃が限界なので、すぐに迎えに来て欲しい。』
―いやいやいや!
どっかの受験生やあるまいし。
こんな風にいきなり言われたら、誰かてドンビキやろ?
それに。
オレが勝手にしたことで、静の平穏を乱すんは、気が引けるしな。
―嘘やな。
ホンマのことを静に知られて、これからの関係が変わるんが、こわいだけや。
『まさか。こうまで単細胞だったとはな。離婚?好きにしろ。俺には関係ない話だ。今後一切、そういう面倒は、御免蒙る。』
―この位は言われそうやな。
あー、考えただけで、メチャクチャさむいわ。
その後、ちょっとずつ、冷たなって、フェイド・アウト…とか?
―ああ。
アホなことばっかり考えて、ドツボにハマっとらんと
とにかく、電話や。
今のオレに出来るんは、ケジメをつけること位やろ?
トバッチリの藤井さんだけでも、何とか手を打っとかんと、世間的にも、色々マズいしな…。
―何にせよ、もうオレだけの話やない。
意を決した和泉は、おもむろに、カバンからスマホを取り出し、操作した。
「ああ、静?まだ起きとった?」
『当たり前のことを訊くな。起きていなくては、こうして話せない。』
―いつも通りの屁理屈やな。
フッと口元が弛んだ拍子に、何かが溢れた。
―あ。
アカン!
欄干に、1つ。染みが出来た。
3つ…6つ。
後からあとから、キリがない。
「っ!」
―止まれ!!
嗚咽が漏れそうな口を閉じ、必死に念じた。
『…和泉?』
「な、っでもなぃ。悪い、な。また、…かけ直すっ、から。」
強引に通話を終えた後、流れるものを手の甲で押し拭った。
―アホやな。
子供やないねんから。
今更泣いたって、どないにもならへんのに。
静をわざわざ起こして、迷惑かけただけやんか…。
―ふぅ。
欄干に手をつき、暗い水面を眺めた。
『行く川の流れは絶えずして、しかも本のみずにあらず』
キリキリ痛むのは、胃か。それとも…
焦れたのか、いや、怒ったのだろう。
間を置かず、手の中で鳴動し始めたスマホを、和泉はぼうっと見つめた。
―静…
祈るような気持ちで、ソッと指を動かした。
『和泉。』
「ああ。ごめんな、ちょっと胃が痛うて…」
『胃?冷戦のストレスからだろう。まだ続行中なのか。』
「そらもう、絶賛続行中や。それでな、ちょっとトンデもないトラップが見付かって…かなりマズイことになっとる。オレの選択ミスが原因で、非武装民が約1名、捲き込まれかけとるらしい。どうにか、助けてやりたいけど、今オレ、別のことでけっこう頭が煮詰まっててな、ちょっと静の知恵が、借りたいねん。」
『和泉。解るように、順を追って、落ち着いて説明してみろ。』
「ああ。えーとな…。」
そこで、和泉は息をつき、フニャッと笑った。
―順を追って…か。
(もし、引っくり返ったら、ごめんやで?)
「事の起こりは、10日ほど前やねん。…実はな。オレはゲイやからおまえは抱けん、離婚してくれって、嫁に言うたんや。」
いきなり派手な音がして、通話が途切れた。
―あれ?
「せい…?」
かけ直したが
『このスマートフォンは…』
無機質なアナウンスが流れるだけだった。
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