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ウチのリビングに入るとすぐ、夫が口を開いた。
「あのな、莉緒。一番最初に誘ったんも、今日会いたいって言うたんも、どっちも、オレからやねん。だから、セイは悪くない。恨むんは、筋違いや。」
テーブルに置かれた手袋は、見たことも無い革の物やった。
きっとアイツが、この人用に買うたに違いない。
―ホンマ、一体どういう神経してんの!?
怒りと悲しみが、ない交ぜになって溢れるのを感じた。
「たっくんは、そない言うけどな、あの男がおらんかったら。私らまだ、幸せやったん違うの!?」
「それは、…わからへん。」
夫は、コートを脱ぎながら、ため息をついた。
「何にしろ、今みたいになったら、お互いもう、無かったことには出来へんやろ?」
たしかに、言われてみれば、そうだと思う。
お互いウソがキライな質だし。殊に夫の貞操観念は、固すぎる位の筈だった。
―もう私、この人とは一生エッチせんのやろな。
そんなことが頭を過った。
「…苦しかったんや。」
夫がぽつりと呟いた。
「その苦しさから自分が逃げる為やったら、誰がどないなっても、かまへんの?」
「それは違う!そうやない。」
「何が違うんよ?同じやない!!」
「…変な言い方やけどな。おまえをキライになったとか、今の生活から逃げたいとか、そういうことやないねん。嫁のおまえやから、もうこれ以上誤魔化したらアカンと思った。それがオレなりの誠意やねん。」
「誠意やて!?浮気もんが、今更なに言うてんの?」
腹立ち紛れに、私は夫にむかって、バッグを投げつけた。
「浮気やない。オレは本気や。」
受け止めたバッグを静かにソファーへ置きながら、夫が答えた。
「ああ、そうやろな。そやけど、その内絶対別れるハメになる。せいぜい甘い夢でもみとればええわ。」
「おまえには悪いけどな、セイも本気や。本人から言われたから、間違いない。この関係を続けていけるように、お互い努力していこうってことになった。」
「はぁ…?何よそれ!一体、なんの報告やの!?止めてよ、もう!」
必死で耳を塞ごうとしたのに。
いつになく、力強い腕がそれを阻んだ。
「オレら夫婦のやり直しはもうムリや。そやけどな、別な人とのチャンスは、この先いくらでもあると思うねん。」
「ハッ!チャンスやて!?メチャメチャ勝手な言い種やわ!!何がこの先よ?私のこの先は、アホなあんたのせいで、ずっと真っ暗やわっ!」
「なあ、莉緒。頼むからもう少し落ち着いてくれ。」
「うるさいわ!私にこんな話して、どないに落ち着け言うんや!!」
「まあ、そこにでもちょっと座ろうや。」
夫はソファーに座ったけど、私は立ったまま、こう言った。
「…悠真は、あの子のことは、どうするんよ!?」
「あの子にも、解ってもらえるように、引っ越す前に話してみるつもりや。」
コレにはさすがに唖然とした。
「あの子にも…言うつもりなん?」
「ああ、そうや。」
「まだ5歳やねんで?そんなん、あんまりやないの!!」
「子供やから、解らんやろうっていうんは、違うと思うねん。オレはずっと、何かが可笑しいなぁって思いながら、ずっと誰にも何も訊けんまんまやった。察して、空気読んで。見てみぬフリばっかりが上手になって…。悠真には、あんな思い、させたないんや。」
そう言った夫は、かなしそうな目をして口元を歪めた。
結婚して8年。初めて見る顔やった。
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