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雨が止んだその日◇04
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二人向かい合っていただきますをするのは、これが二度目だった。
「美味しそうだね」
「茹ですぎましたけど」
綺麗に盛り付けられたミートスパゲティを眺めて、笑い合って手を合わせる。食べる合図をかけつつも彼が食べるのを待っていた。味を失敗したわけではないのだから、少しばかり食感が違うだけで……。妙に緊張しながら桑原さんを見つめていると、優しく笑んで「美味しいよ」と返してくれた。
「ほ、本当ですか」
「ああ、本当さ」
彼の溢れんばかりの笑顔に、胸がきゅうっと締め付けられた。
なんでこんなにも桑原さんのことが好きなんだろう。
「……よかった」
俺も安堵の笑みを見せてひとくちぶんフォークに巻きつける。美味しいね、美味しいね、と繰り返し呟く桑原さんに照れながらも頷いた。
おいしい。
あなたと一緒にいられることが、嬉しい。
食べ終えて二人して食器洗いをしているときも、「久しぶりで本当に美味しかった」「ミートソースの味が丁度良かった」「思わずおかわりをしてしまった」なんて感想を言い続けるから、あまりの恥ずかしさにただ笑い返すことしかできなかった。
「大袈裟ですよ」
俺は桑原さんの作るカレーライスが食べたい。
「嘘じゃないよ。本当に思ったんだよ。また教えて欲しいな」
「俺でよければいつでも教えますよ」
さり気なく“次”を約束してみても「頼もしいなあ、よろしくね」の一言で消えてしまう。
「桑原さんは、料理が得意な女性がタイプですか」
意地悪に聞くと、変わらない表情で「どうして?」と返された。
「なんとなくです。桑原さんがカレーライスしか作れないから、奥さんは料理が得意だったのかな、って」
「それだけで選んでいたわけじゃないよ」
「……はい」
知ってます。そんなの。料理が作れるからって、良い気になるものじゃない。少しだけ親しくなったからって、誰かを越えられる存在じゃない。
知ってる。それくらい、知ってる。
悔しい。
「涼太くんのタイプは、笑顔が可愛くて優しい子?」
「どうしてですか」
「そんな印象を持ったからだよ」
そう言われて思い付くのは、 栗色の髪の、小動物みたいな背丈の、はにかみながらこちらを見つめる、宮崎雪菜。
「宮崎さんとは付き合っていません」
「宮崎さんっていうんだ」
違うのに。
「女の子らしくて可愛らしい、良い子だったね」
俺が好きなのは、彼女じゃないのに。
「……俺のタイプは、年上で優しくて、寂しそうに笑う人です」
「そうかい。……私の好きな人は、不器用だけど真っ直ぐな子だよ」
そんな人、知らない。
「桑原さんに愛された奥さんは、幸せなんでしょうね」
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