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雨が降った日◇04
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来た道を戻り彼の姿を探す。大きな背中を見てホッとした。
「桑原さん!」
薄っすらと目を細め口角を上げて、変わらない笑顔で「やあ」と短く返事をした。
「あんなところで会うなんてね。今日は学校は?」
「一回帰って、麻婆豆腐を作ったんです。桑原さんに食べてほしくて」
手に持っていた紙袋を広げて中身のタッパーをみせた。ぎっしり詰められた麻婆豆腐は、こぼれないように輪ゴムで何重にも留めてある。
「そうかい。だから私服なのか」
嬉しいよ、すごく美味しそうだ。桑原さんは不自然なく、さっきの出来事には触れない。それは有難くて、俺の中からもなかったことにしてしまえるけれど、聞いて欲しい気持ちが少しあった。吐き出してしまいたかった。
桑原さんは、俺の手をとる宮崎さんを見て、どう思った?何を感じた?
「実は食材だけ買って、学校帰りにそのまま寄ったんです。でもいなくて、帰って、作ってきたんです」
「ああ、すまなかったね。仕事をしていたんだね」
「出来上がってまた来たんですけど、はやく来すぎちゃったみたいで。まだいなくて」
桑原さんの顔が見れなくて、目の前に映る長い彼の影だけをじっと見ていた。
ゆらゆら動く、左手の鞄。細かく揺れる、綺麗な髪の毛。
「それで、コンビニに行って、デザートを買おうと思ったんです。でも、桑原さん、何が好きなのか分からなかったから、諦めて。そしたら、宮崎さんに会って、世間話とか少しして、それで、」
声が震えた。鼻の奥がツンとして、妙に熱を持った。
「それ、で……」
彼に嘘なんか付けない。そもそもあの場所にいたのに、通用するわけがない。
デザートは何だってよかった。きっと彼は、どんなものでも笑って喜んでくれる。
「……優しいね、涼太くんは。誰かのために、泣けるんだ。ありがとうって、ごめんなさいって、思えるんだね」
優しくない。俺は全然、優しくなんかない。
告白されてから、宮崎さんのことをちゃんと考えていたと嘘を付いた。女じゃなくて、男が好きだと言って傷付けた。
優しくなんか、ない。
「俺、好きなんです。好きな人がいてっ……すごく、好きなんです」
あなたのことが、好きなんです。
「そう、ちゃんと伝えたんだね。偉いよ、涼太くんは」
あまり褒めないで。桑原さんの中にいる俺はあまりにも美しくて、現実にいる俺の汚れが妙に目立つ。
彼が褒めるたび、彼が優しくするたび、俺はごめんなさい、と心で呟く。
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